1人が本棚に入れています
本棚に追加
それから数日間、早めに登校して自主練をしていたが、いつも通り校門前に集まった部員たちは、そこに浅野が来ていないことに気づいた。
「あれ、寝坊したかな? ライン来てる?」
「いや、なんも来てない」
「レギュラーの座を奪うチャンスじゃね?」
田口がぐるぐると勢いよく腕を回すと、小野寺が鼻で笑って
「ムリムリ。お前身長ないし」
「いやジャンプ力あるから。舐めんなよ」
「お、みんな揃ってるな」
浅野が、なぜか校舎側からやってきた。なんだよずっと待ってたんだぞ、と文句を垂れる溝口たちに拳を突き出すと
「さあ、中に入ろうぜ」
握った手を緩め、目の前で体育館のキーを揺らしてみせた。
「まさか盗み?」
「あほか。先生に言ったら貸してくれたんだよ。熱心で素晴らしい、って褒められたし」
「先輩に対する嫌味じゃね?」
「ま、始めようぜ!」
窓を開けて換気をしつつ、ボールに触ると体がウズウズする。
「シュート練習!」
「あ、俺ドリブルやりたい」
「じゃあカットしようっと」
「そしたら2対2でやったら良くない?」
「確かに」
グーパーでチーム分けしてすぐに試合開始だ。ジャンプボールでは一番身長の高い溝口が難なくボールを取った。振り返りパスを試みる。が、弾かれた。すぐに重心を切り替えて追いかける。シューズが床を踏みしめるキュッキュっという音に緊張感が高まる。
「おい、こっち!」
「パス!」
「ナイッシュー!」
「ドンマイドンマイ」
ボールを奪われれば悔しさに顔が歪み闘志が燃え上がる。ボールを持てばすぐにターンしてゴールを目指す。
白熱していったそのとき。
「おい1年!」
ドスの利いた高野の声が響き渡った。振り返ると、高野が扉の前で仁王立ちになっていた。冷たい視線に射すくめられ、その場にいた1年が一斉に扉の方を見て固まる。直前に浅野が放ったシュートがリングをぐるぐると周り、外へと落ちた。バウンドして転がっていく音が気まずい沈黙の間を転がった。
誰からともなく仁王立ちの高野の前に整列する。
「なんで勝手に入ってるんだ」
「先生に言ったら鍵を貸してくれたんです」
浅野が口を開くと、視線で射殺(いころ)されるかと思うほどに睨まれた。
「チームワークを乱すやつはチームには要らない」
その日のうちに、その言葉の重みを知ることになる。
最初のコメントを投稿しよう!