冷たい彼との物語

15/18

157人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
「……そうもなる。どういう対応していいのか分からなかったんだ」  私は先生らしくない声に、先生の顔を見あげた。 「え?」 「知ってたよ、小説書いてたことも全部」 「ウソ……知ってるはずない」  私がつぶやくと、先生は唇をぐっと噛み締める。 「うそなわけあるか! 知ってたよ! 調べて、聞いて、全部知ってた! 本も全部読んだよ! すごいと思ってた! 応援してた! どこにいるかわからなくても、杏奈も頑張ってる。そう思うだけで頑張れた! そんな、ずっと好きだった相手が……自分から車の前に飛び出て自殺して、瀕死の状態で目の前に運ばれてきて! そんなこっちの気持ち、考えたことあるのか‼」  泣きそうな顔で、声で、そう怒鳴られて……。  私は思わずもう一度先生の顔を見る。目頭に熱いものがこみあげてきていたのが、自分でもわかった。  すると、先生は、怒鳴ってごめん、と小さく言う。私は何を言っていいのかわからなくてただ、黙り込んだ。 「杏奈の書いた本、何回も読んだ。医者がよく出てきたよな。よく取材してあって、勉強にもなった」 「そんなの……」  お母さんも褒めてくれた。ファンも多少なりともいた。  でも、私は自分で自分が信じられなくなった。書けなくなって、どうせ、私なんて、って思って、そして……。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

157人が本棚に入れています
本棚に追加