冷たい彼との物語

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 私は、この男がなぜここにいるのか、なぜ自宅アパート全焼の話をしだしたのか、全く分からないまま男の顔を凝視する。しかし、男は焦った様子もなく、また淡々と話を続けた。 「家を探さないといけない、と呆然としていたところで思い出したのが神倉さんだ」 「呆然とするようなキャラではないですよね⁉」  ツッコミどころはそこではないと分かっていたが、思わず言ってしまう。  いつも通り冷たい声と冷たい目と冷たい態度。『呆然』なんて言葉がこれほど似合わない男が他にいるだろうか……。  私が眉を寄せると、男は、 「神倉さんが、入院中に大家さんと話していたことを思い出して。神倉さんのお隣さんが急な転勤で引っ越して、入居者を募集することになったけど、すぐに次の人なんて決まらないだろうって……大家さんが困っていただろ。神倉さんの家は病院からも近かったとカルテの住所を思いだした」  カルテの住所って……職権乱用も甚だしい。確かにそういう会話を大家さんとした覚えはある。  唯一の肉親であった母が亡くなっていて身よりがないので、大家さんが親戚の代わりに、我が家から着替えなどを持ってきてくれたのだ。そう、その時、そんな話をした。  今思えば、ちょうどその時、私の担当医であった男、つまり、この一ノ瀬先生が診察に来たのは確かだが……。 (そんなこと思い出す? ってか覚えてる? っていうか、なんでうちに⁉) ―――神様、これは悪い夢でしょうか。
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