冷たい彼との物語

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 私は突然の事故で、一ノ瀬先生が勤務する港台大学病院に入院することとなった。  一ノ瀬先生は私の担当医。一ノ瀬先生の態度も、口調も、声も、目も、全部冷たくて、私は苦手だった……。  次に事故に遭うときは、この大学病院の管轄はやめておこう。と本気で思ったくらいだ。 「ここに来ればその大家さんに会えると思ってたけど、このアパートに住んでないんだな。大家さんの電話番号教えて」  一ノ瀬先生は高そうな黒いロングコートのポケットからスマホを取り出し、当然のようにそう言ったのだった。  その言葉にやけに頭の中が冷える。 (つまり、一ノ瀬先生、うちのお隣に住もうとしているって解釈でいいのよね⁉)  私は慌てた。退院して、やっと先生と離れられたと思ったのに!  隣に引っ越してこられたら、迷惑この上ない。 「今までは病院で寝泊まりしていたんですよね⁉」 「あぁ、一か月ほど。神倉さんをはじめ、つぎつぎと急患が運ばれてくるもので全然家に帰れなくて」  ナチュラルに嫌味をはさんでくるのは、一ノ瀬先生の持ち味か。それともただ性格が悪いだけか。多分どちらもだ。 「その節はお世話になりました」 「それで久々に帰ってみたら、アパートは全焼。きれいになくなってた」 「それはそれは……ご愁傷様です」  私はなんとなく居心地が悪くなって、目線を彷徨わせる。  病院で、医師と患者と言う関係でもなく、こんなところで、一ノ瀬先生と二人で話しているのも居心地悪い。  早く帰ってほしい。願わくば、今すぐいなくなってほしい。  というのも、一ノ瀬先生が我が家のドアの前にいて、自分の家なのに入れないのだ。せっかく退院したところなのに……家に入りたい。
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