冷たい彼との物語

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「本当に隣に住むつもりですか? 見ての通り、狭いですよ?」 「悪い?」  そう聞いた一ノ瀬先生の眼がまた光った。声も冷たい。  ひゃっ、と声が出そうになって、すんでのところで抑えた。 (怖くていろいろ漏らしちゃう……!) 「別に悪くは……ないですけど」  私が言うと、そう、と一ノ瀬先生は言い放ち、そして、 「何か作るよ。晩飯、まだだろ」 と言ったのだった。 「料理できるんですか?」 「なぜできないと思った?」 「いや。私できないので」 「何食って今まで生きてたんだ」 「食パン」  そう言った瞬間、一ノ瀬先生が大きなため息を漏らす。  え、なんなんですか! その反応! 食パンは日本の最高の食文化だけど! 安い店で買えば一袋100円以内は貴重だ。100円で3日は食いつなげる。 「食パン美味しいですよ。いろんな味が楽しめるんですよ!」 「ジャムとか、マーガリンとかだろ。せめて肉と野菜を挟め」 「……」  何故分かった……? そう思っていると、先生があきれたようにため息をつく。  そして冷蔵庫のそばまで歩いていくと、冷蔵庫をおもむろに開けた。 「ジャムどころか、何も入ってないぞ」 「ちょうど切らしてて。どっちみち一か月入院してたからなくてよかったです」 「材料買ってくる」 「……え?」 「駅前のスーパー、深夜まで開いてるだろ」 「そんな悪いからいいですよ。というか、そんな元気あるなら、今から駅前のホテルに行った方がいいんじゃないですか……」  私が言うと、先生の眉が不機嫌そうに動く。 (私、何か悪い事言いましたか⁉)  やけに居心地が悪いと思うのは、きっと気のせいではない。目線をあちらこちらに彷徨わせていると、 「買ってくるから。待ってろ」  先生はそう言うと、またうちから出ていった。一人、室内に残された私は、今の状況がつかめずにいた。
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