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柊さんの引退宣言(正確には五輪引退宣言だけど)は瞬く間に業界を駆け抜けた。
ロジャー勇退後の絶対王者として君臨した柊さんが遂に競技生活を畳みに掛かった……
「たいちゃんは? リプあったんだろ? 何て?」
「現役のうちに絶対に柊にーちゃんを越えるって」
「!」
柊さんを─────
柊さんを越える。たいちゃんは既に、残り少ないそのチャンスに向けて全振りなんだ。
「雄大、お前合宿所に行け」
「え」
「恋愛なんかしてる場合じゃねーわ。俺も全振りだわ」
「恋愛なんか」
直近のERA、年明けのEXで結果を出さないと強化選手入り出来ない。日本国内に若手の実力者が次々育っている今、結果を出せない嘗てのメダリストに誰が見向きするってんだ。
前回メダリストの柊さんやたいちゃんと俺じゃスタートラインから違う。いや、今の俺にはERAの切符だって届くかどうか。
雄大は俺の頭をポンポンし、顎を頭に載せた。
「危ないとこやったね〜〜足腰立たなくさせたかもやね〜〜」
「今もなんかアチコチ痛いわ。クマみたいな体でのし掛かりやがって」
「テヘ♡」
「オフシーズンになったら続きするからなっ!」
「ハイハイ」
ヘラっと笑った雄大は長い腕で柔らかく俺を包んで。「全力で王者を追い落とすんが若いライダーの仕事って柊にーちゃんが言うとった」と、今、俺の脳内に渦巻く言葉をシミジミ呟いた。
『全力でロジャーを追い落とせ。躊躇するな』
『それが若いやつらの仕事だ。ロジャーの望みだ。帝王の引き際だ』
『スッキリきっぱり辞めさせてやれ』
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