曽我蔵人の求愛

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  「パンは俺が焼く言っとる。俺が焼いたヤツのが絶対美味いのに」 「ランニングのついでだろ。つーか寝過ぎなんだよお前」 「お前ゆーな年下のくせに」 「いっこ上なだけで偉そーにすんな。早生まれのくせに」 「早生まれの “くせに” って何じゃ。全世界の早生まれの皆さんに謝れ」  ウィンタースポーツ2020ー2021シーズン幕開けと同時に、この部屋の元の住人が転がり込んで来た。 『ユーダイとクロードは仲良しだから』  LAWLESS(チーム)のボスによる配慮ではあるけど正直余計な事を……と思わなくもない。いや嬉しいっちゃ嬉しいけども。  雄大がアレンジしたチリビーンズは美味い。  たとえアメリカのパンが日本の味に劣っていようとも、全てチャラにしてくれるほど美味い。  淹れてくれるカフェオレはコーヒーとミルクの配合がめっちゃ俺好み。  顔に出るくらい疲労が溜まってたらマッサージも施してくれる。  何だかんだで家事の殆どをやってくれて有り難いのが本音。体はデカいし(188センチ)性格も大味なくせに変なとこがマメなんだ相変わらず。  せめて……パンくらい俺が買って帰ってもいいと思う。村じゃないんだし、そもそもシーズン中はパン作りから解放されるのが嬉しいって前に言ってただろが。   「竜神様に感謝して頂きます!」  ムスリム並みに信仰心の厚い雄大は朝食の前、必ず手を合わせる。  ダイニングの内装の煉瓦は一つだけが黒く塗り潰され、その目印の方角が雄大の故郷、碓氷村だと聞いたのは二年ほど前だ。その時は俺の方が転がり込んでいた訳だけど─────  シーズンオフには俺も雄大と一緒に碓氷村に『帰る』予定だ。  ちょっとドキドキする。
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