1-1 「嫉妬」

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ズバリ。大学時代の美園が描いていた将来のビジョンはこうだった。  本が好きだから、是非とも自分も作家になりたい。その為には本を多く読むことが必要だし、フルタイムでバリバリ働くのも時間が捻出出来ない。ならば、嘱託の扱いでも、図書館司書になろう、と。  しかし悲しいかな、彼女には全くと言っていいほど小説家になるような才能がなかった。文学賞に送っても落選ばかりで、20代も半ばになる頃には、自分でもそれが分かってきた。こうなったら、仕方ないけど夢は諦めよう。美園は泣く泣く、胸に抱いてきたビジョンを捨てた。  しかし夢破れたからといって、人生からもログアウト出来る訳ではない。なんとか、旨味を探して生き続けねば。 両親からは「貴女も若いのだから、正社員で、もっと稼げる仕事を探しなさいな」とも言われたが、そんな気はサラサラ沸かなかった。 新卒から5年近く勤めた職種を、今更変えるのも面倒臭い。それに、美園は司書に適しているらしく、職場からの評判も良かった。 せっかく自分を輝かせる場所にいるのだから、此処で結婚相手を探そう!いつしか、彼女のビジョンはそちらに移行していた。 教員ならば、公務員であるし、それなりに安定した生活を保証してくれるハズである。互いに働けば、人並みの生活は出来るだろうと。 しかし。そうやって、慎ましい理想だけで生きていたというのに、何故それすらも叶わないのか。 美園は思わず涙が出て、ハンカチで押さえた。 ああ。可哀想な私ー。図書館で独りでいると、尚更、孤独感が募るようだった。
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