1-2 「久々の恋」

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1-2 「久々の恋」

「川越美園です。趣味は読書に映画鑑賞。皆さん、宜しくお願い致します」 さして面白くもない自己紹介をして、美園が頭を下げると、パチパチと拍手の音が彼女を包んだ。 今日は、M中学校に赴任して初めての飲み会。美園を合わせ、10人の新任教師が酒席に招かれた。 人付き合いと同じく、注目されるのが苦手な美園は、サッサと自己紹介を終えて、座布団に腰を下ろした。 美園の次にマイクを取ったのは、30代前半と思われる、割りと可愛い女性教師だった。 「濱村夏樹です!昨年、子どもが保育園に入ったので、今年からまた、担任を持たせて頂ける事になりました!」 濱村女史は、ニッコリとハキハキ喋り、ギャラリーも楽しそうだった。 美園は、こういうプロフィールを聞くと、胸がチクチクする。 自分の話すコンテンツなんて、名前と趣味くらいしかない。 だが、女も30歳を過ぎれば、皆、それなりのインデックスが増えていくのが普通なのだ。 誇れる仕事に旦那、そして子ども・・・。どれもこれも、自分にはない。 あぁ。勤務初日から、こんな不快感を味わうだなんて!美園は、やりきれなくなり、ビールをグイッと勢いよく呷った。 この飲み会に6000円も払っているんだから、元を取るためにも呑まないと。このアルコールが後に脂肪に換わるなんて事実、今は無視しよう。 そう考えてブスッと酒に酔ってると、ふと、横から「注ぎますよ」と声がした。 首を横に向けると、そこには、とてもハンサムな好青年がおり、美園に微笑んでいた。 自己紹介時は緊張して周りが見えていなかったが、この学校に、こんなイケメンがいたなんて。 美園の胸は早鐘を打ち出す。
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