1-1 「嫉妬」

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1-1 「嫉妬」

いつからだろう。桜の花を見ても、全くトキメかなくなったのは。  図書館の窓から見える桜を見つつ、美園は切なくなって思わず溜め息を吐いた。  あぁ。花の色は毎年変わらず、美しいというのに。鑑賞者の自分ばかりが、確実に老いていっている。 20代の頃ならば、卒業・入学シーズンとなれば、必ず胸が華やいだものだ。 何故なら、新入生の入学と共に、4月になれば中学校には新任教師も大勢やってくる。 その中に、1人くらい自分のタイプの男性教諭がいないかと、美園は毎年毎年ソワソワしたものである。 が、色んな中学校に勤務して早15年経つが、遂にそんなロマンスは1度も彼女に訪れなかった。 確かに、美形の男性教師や校長候補とお墨付きの有望株も、何年かに1回は、同じ職場になった事もある。 が、そういった有料物件は、既に彼女持ちであったり、お世辞にも美人とは言えない美園の事は歯牙にも掛けてくれなかった。 が、それに気が付いていないのは、当の本人だけである。 美園自身、自分を美人とは流石に思っていなかったが、それでも、よく言えば純粋。悪く言えば、やや愚鈍な彼女は、自分もいつかは素敵な殿方に見初められるハズと信じて疑わなかった。 確かに、自分は肥満体型だけど、笑顔を心掛けているし、性格だって良い。 仕事も頑張っているし、きちんと清らかな処女のままだから、ちゃあんと素敵な男性が私を好きになってくれるハズ。 若き日の美園はそう信じ、安い給与でも我慢して、司書として働いてきた。 だが、流石に37歳ともなった最近は、焦りが生まれてきたのも事実だ。 自分が大学を出てから、桜の花は15回も咲いた。 つまり15回も出会いのチャンスはあったハズなのに、1回も交際には結び付かない。 自分は未だに乙女のままだし、ひょっとしたら、これってとてもマズイ状態なのでは? 大学時代の同級生の殆どは、結婚して家庭を持っているし、美園だって、遅くとも30までには結婚する気満々だった。
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