ありがとう、ヒナタちゃん

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ありがとう、ヒナタちゃん

小学二年生の頃、顔は好みじゃないのに何故か好きなったヒナタちゃん。 優しくてしっかり者。成績優秀で算数は既に飛び級、中学生の数学を塾で学んでいた。 ヒナタちゃんと同じ席になって、その優しさで好きになっていった。 幼馴染みの「ヒロ君」と酷いイタズラをし、泣かせてしまっても次の日にはケロリと笑顔を向けてくれた。 それが嬉しくて申し訳なくて、僕はヒナタちゃんを沢山笑わせようと常にひょうきんに振る舞っていた。 四年生になってクラスが別になってしまった。 「クラス、別になっちゃったね」 廊下の斜め向かい、お互いを教室の入り口で見掛けるとヒナタちゃんから声を掛けてくれたが僕は答えられなかった。 僕のクラスはイジメで酷い状態だった。 幼馴染みの「ヒロ君」は三年生の冬に転校し、仲の良かった「サダオ」はヒナタちゃんと同じクラス。僕ではなく別の友人らに囲まれて有頂天。輪に入ろうとしたものの爪弾きにされてしまい、僕は学校では孤立していた。 一学期の終わり、成績不良で居残りを食らった僕は先生がいないうちに逃げようと廊下に出た。 すると、ヒナタちゃんが待っていた。 「あのね、、、」ヒナタちゃんは何かを言いたげだった。 ヒナタちゃんを通して、三年間の思い出が蘇った。 「ひょうご君」「ヒロ」「サダオ」。 僕のもとから去った友達たち。皆との思い出の中に、いつも笑ってくれたヒナタちゃんもいた。 辛くなった僕は言葉を交わす事もなくその場を逃げた。 「待って!!」と呼び止められたが、走って逃げた。 夏休みの終わり頃、暇になったサダオが僕を家に呼んだ。 僕はヒナタちゃんの話をした。 するとサダオは僕に言うべき話を、今更話した。 「ん? ヒナタなら転校したよ」 怒りと悲しみが僕を包んだ。 怒りは、知っていながら僕に話してくれなかったサダオ。そしてあの時逃げてしまった僕自身。 悲しみは、別れを告げる為に待っていたヒナタちゃんを深く傷付けてしまった事。 ヒナタちゃんは一年生の頃から同じクラスだった。1人で過ごす事の多い子で人の輪に入らない。何故か尋ねると「友達を作ると別れる日が辛いから」と話していた。転勤族の子によくある事だった。 僕は「転校するまでの時間をつまらなく過ごすよりは友達と楽しく過ごした方がいいじゃん。楽しかった思い出は消えないだろ?」と言った。 その言葉を受けたヒナタちゃんの笑顔は輝いていて、心の底から笑っていたように見えた。 ヒナタちゃんの心を晴れやかにしたのに、結局辛い目に遭わせてしまった。 小学生の頃の恋愛、物哀しくて、切なくて、でもとても大切な思い出。 ヒナタちゃんありがとう。そして、ごめんね。 初めて心から好きになった人。
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