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ありがとう、マサル君。
意地悪なマサル君。
ひょうご君との仲を裂き、ヒナタちゃんの隣の席を奪い、ついでに僕の消しゴムも盗んだ。
盗んでおきながら一緒に探すフリをし、
「偶然自分も同じ物を持っているから譲ってやるよ」と誤魔化して返そうとするも、
「それは出来ないからもういいよ」
というと「ホント?!」と妙に嬉しそうにしていたマサル君。
二年生の頃に大喧嘩をし、マサル君の顔に傷を残してしまった。当時の担任の先生曰く「一生物の傷」らしい。頬にかけて横に線を伸ばしたような薄い傷跡。取っ組み合いの喧嘩の最中、僕が爪で引っ掻いてしまった。
四年生になり、何となく古本屋で漫画を立ち読みした帰り道。
転勤族が集まる団地の駐車場で一人遊ぶマサル君を見かけた。
マサル君が僕を見つけて呼び掛けた。
「おい。楽しいか? 満足か? お前が仲間外れにしたせいで俺は一人だ」
二年生の頃にあった大喧嘩以降、マサル君はクラスでも孤立していた。周囲も距離を取っていた。よく嘘をつくからだ。
「いいきみだよ。自分が巻いたタネだろ」
覚えたての言葉で返してみせ、自己満足に浸る僕。
でもじんわりと、マサル君の心の寂しさが伝わった。
マサル君には弟がいた。小学一年生の入学式の帰り道、母と共に歩いて下校する僕の隣にマサル君はいた。
「ママとパパは?」母の問いにマサル君は、
「弟の入園式に出てるから来てない」と答えた。
その後、僕をそっちのけで母と話すマサル君。内容は嘘ばかり。
それでも母は優しく丁寧に受け答えしていた。後で母に何故マサル君の嘘を信じたのか尋ねると、
「寂しくて言ったんだと思うよ」と短く答えた。
母の言葉が全てだったのだろう。マサル君を思い出すと母の言葉とその考えが巡る。
マサル君は四年生の終わりにひっそりと転校した。
された事は消えないが、僕はマサル君、きみを許す。
あの時は、マサル君の心の寂しさに気付けなかった。
君は何度も不器用に僕と友達になろうとして、意地悪をしていた。
ありがとうマサル君、そして、ごめんね。
ある意味で君は僕に似ていた。
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