違和

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違和

 暗い裏路地に悲鳴が響き渡った。  絶望的な恐怖を帯びた悲痛な叫び。  急迫した生命の危機が、悲鳴の主に及んでいる事は明らかだった。  該当する地点は、表通りから離れた廃ビル跡地。そこにロボットの反応が一体。周りに人間の反応が五人。  ロボットが暴走し、人間を襲っているようだ。救いに駆けつけた人達も、ロボットの防御力攻撃力には歯が立たないらしい。  彼は一瞬で状況を読み取ると、最速で現地に向かった。 「ほら、逃げ回れよコラ。どうせお前は逃げられねぇんだ。もっと泣き叫んで楽しませろよ」  男の声が聞こえると同時に、その声をかき消すような女の悲鳴。  彼が現場に到着した時、哀れな被害者は服を切り裂かれ身体のあちこちに傷を負った姿で塀際に追い詰められていた。  その光景に、彼は違和感を感じた。  一体のロボットが、女性をいたぶっている。そんな光景だ。  ロボットの腕には強力無比なマニピュレーター。人間の身体などあっという間に握り潰すことが出来るだろう。足部の形状からして、ホバリングによる高速機動性能を有している事も明らかであった。一方的な虐待の現場である。  悲鳴を上げているその女性は、まだ少女と言っていい年齢に見えた。ロボットと共にその少女を取り囲んでいるのは大柄で力強そうな男性四人――。しかし、その四人が少女を助ける気配はない。  いくら屈強な男性であっても、強力なロボットに立ち向かう事など出来ず、彼女を救いたくても救えない状況――。だが彼の判断は違った。 「さぁて、そろそろクライマックスと行こうか」  そう言って一歩前に出たスキンヘッドの男。その視線はぎらついて、少女の肢体を睨め付けている。  この男達こそが、ロボットを使って少女を嬲りものにしようとする元凶だったのか。  それにしても不自然だった。いかにロボットが命令に忠実であるとは言え、【人間に危害を加えてはならない】という第一原則は、【与えられた命令に服従しなければならない】という第二原則に優越する筈だ。  だとするなら、彼らの使うロボットは、ロボット工学三原則のうち最も重要な第一原則を組み込まれていない、つまり違法に製造されたものだという事になる。  彼は、今まさに凶行が行われようとしている廃ビル跡地に、一歩足を踏み入れた。
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