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世界から神さまはいなくなって、大きな卵が残されました。卵を見た人間たちは言いました。
「これはいったいなんだろう。岩だろうか」
「卵みたいな形をしているわ」
「だけど、こんなにも大きな卵を生む生きものはいないだろう。子どもの背丈くらいあるぞ」
「それにしても、白くてきれいな岩ね」
「きっと神聖なものにちがいないよ」
神さまの卵を守るようにして、白い石の柱と屋根がつくられました。人間たちはこの場所を、「神殿」と呼びました。
人間たちは、ときどき神殿にやってきました。
「来週の試験に、合格できますように」
「隣のクラスのアザミちゃんと、両思いになれますように」
どうやら、神殿でねがいごとを言うと、かなうと思っているようでした。神さまは、一度も卵から出ず、人間たちに何かを言うこともしませんでした。
「ねがいをかなえる力なんて、持っているわけがないじゃないか。自分のねがいもかなえられなかったのに」
誰もいない夜中に、神さまはつぶやきました。
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