セージの昔話

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 セージは毎日、お話の練習をしにやってきました。かれがこんなことを聞いてきたことがありました。 「ミルザ、どうやったら、もっと聞きやすくなると思う?」 「もうちょっと、ゆっくり読んでみたらどうかな」  セージはふんふんとうなずきながら、かばんから出した小さな紙にミルザの言ったことを書いて、絵本にはさみました。次の日からセージの読み方は少しゆっくりになりました。  ぼくの知っているロスマに近づいてきたな、とミルザは思いました。  お話が終わったあと、ミルザがこんなことを言ったことがありました。 「どうしてこの魔法使いは、こんなにほかの生きものを助けるんだろう?」 「そりゃあ、自分が何かをやってあげて、誰かが笑ってくれたら、うれしいさ」 セージはにっこりして、そう答えました。  ロスマもぼくに笑ってほしくて、お話をしてくれたのかな。でも、ぼくはありがとうすら、言えなかったじゃないか。セージが早くロスマとしての記憶を取り戻してくれたら、伝えられるのに。  ミルザはセージと話しながらも、そんなことを考えていました。  剣士のお話を練習した日、セージがいいました。 「仲間が死んじゃうって、きっと悲しいよな」 「明日も会えるって思っている相手が、急にいなくなっちゃうのは苦しいよ。勇敢な人でも、どうしていいかわからなくなったと思う」  卵の殻の中にいるというのはこういうとき便利でした。少しくらい泣きそうになっても、気づかれないからです。  セージはゆっくりうなずいて言いました。 「おれはぜったい、だまって来なくなったりしないから。安心してくれよ」 その目は、卵の殻を透かしてミルザのことを見つめているようでした。
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