15、愛日と落日⑧

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「どうしたの。いいじゃん、行けたら。頑張ろうよ」 「出られるったってあのクソ生意気な双子に、おんぶ抱っこされてだろ? ほかの下のヤツらのためにも、これ以上調子乗られるぐらいなら出られなくても別にって感じ」  彼は大真面目な顔で言っているが、端的に言ってドン引きした。と同時に絶望もした。  重陽は彼のことが好きではなかったけれど、三年の夏まで一緒に真面目に頑張って来たチームメイトだとは思っていた。ちょっと性格が合わないだけで、同じ目標に向かって一緒に頑張って来た仲間だと思っていたのに。 「……あいつらだって。努力したから速いんじゃん。いや、他のみんなの頑張りが足りないとかそういうこと言いたいんじゃないんだけど、なんだろ。ちょっとうまく纏まんないんだけど……速いことと生意気なことは別じゃん!?」 「そうだよ。別だよ? 別なんだから、どんなに速くたってムカつくもんはムカつくって話だろ」 「それって、全国大会行けなくてもいいやって思うほどってこと?」 「うん。たぶん、みんなそう思ってるよ」  腹が立って、座っているのに目眩がした。性格の悪さならおたくも相当なもんですけど!? と喉元まで出かかったが、流石に飲み込む。ショック過ぎてかえって損得勘定のそろばんは絶好調だ。駅伝はチーム競技。今ここで重陽までキレたら、チームは空中分解必至である。 「そうだったんだ……ごめん。おれ、部長なのに全然気づけなくて……」 「いやいや。しょーがないって。初めてのインハイだろ? お前のことはみんな応援してるよ。部長ってより前に、お前はうちのマスコットみたいなもんだからな。だからまあ、頼むぜ部長。俺たちの期待、裏切らないでくれよ」  悪びれなく笑った相手の様子に、腹が立ち過ぎて逆に「無」の境地まで達した。  そりゃあ、人間誰しも不完全だ。同じチームだろうがなんだろうが、いけ好かないから応援できない。という気持ちは分かる。  けれど、その気持ちが「あいつらに頼らなきゃいけないなら全国とか別に」と言えてしまうほど肥大しているんだとしたらもはやそれは呪いだし、そんな彼らに自分が応援してもらえる理由が「マスコットみたいなもんだから」というのも大概な話だ。  要するに今、自分は、駅伝を盾に取られている。重陽はそう感じた。俺たちの機嫌を損ねず、今までどおり大人しくマスコットとしてイジられていれば応援してやるし、一緒に走ってやらんこともない。お前が今までどおりでいさえすれば。
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