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「秘密ですよ。おれ、見てのとーりそういうキャラじゃないんで」
そんなことを突然打ち明けられ、戸惑いのままに「へえ」としか返すことができなかった。
「……なんでそんなこと俺に言うの」
「なんでって、聞かれたから」
「それは違うだろ」
「ちがわないですー。おれは聞かれたことに正直に答えただけですー」
「だから、なんで正直に答えるんだって聞いてんの。しまっとけよそういうのは」
部室を施錠する夕真の横で、喜久井は「ああ、なんだ。そっちか」と拍子抜けしたような声を出す。
「だってなんか、先輩にはそういうのバレてるみたいだし。だったら取り繕うだけ損じゃないすか。そうする意味もないんだろうし。素のままでいていいなら、おれはそっちの方が楽なんで」
夕真の脳裏に、自分の切り取ったあの瞬間が浮かんだ。喜久井が怯え、喜久井を追い立てていたものの正体が、今の言葉に集約されている気がする。
けれど、それには確かにものすごく好奇心を掻き立てられていたはずなのに、分かってしまうと「そんなこと知って、俺に一体何ができるって言うんだ」という戸惑いと後悔ばかりが先に立って目が泳ぐ。
「……取り繕っといてくれよ。荷が重い」
「そんなあ。っていうか、先にデリカシーないこと言ってきたのそっちでしょ」
ずばりと指摘されてしまい、何も言い返せない。
「そうだあと先輩、あんな風にコソコソしてないで堂々と写真撮りに来たらいいじゃないすか。写真部なんすから」
「コソコソはしてない断じてしてない」
「いや、完全に文春ムーブしてましたって。かえって目立ってましたけど」
流れで一緒に外へ出てきたが、昼休みと違ってより明確にこちらの内心へ踏み込んでくる喜久井はやっぱり輪をかけて鬱陶しかった。そしてまた、残念なことに向こうの方が正論を言っているのが分かるだけに余計たちが悪い。
「来月またレースあるんで、今度は練習も堂々と撮りに来てくださいよ。俺に頼まれたってことにしてもらっていいんで! ね?」
が、それは確かに魅力的な申し出ではあった。不可抗力とは言え、県大会の写真をカラーで残せなかったのはやっぱり少し心残りだったのだ。
「……いいけど、約束はできないよ。模試とかあるし」
「ああ。先輩、受験する感じっすか。この時期まだ部活出てるってことは、推薦とかで進路決まってるんだって思ってました」
「は? 今日はお前の写真プリントするために残ってたんですけど」
「ああっ!」
「取り繕ってないとお前、ほんとナチュラルにうざいな……」
何を開き直っているのか、喜久井は手を叩きながらケラケラと笑っている。
不規則に吐き出される白い息が、顔の周りを煙幕のように取り巻いていた。
太陽みたいな笑顔は直視すると目に痛いので、そのくらいの雲がかかっていてくれるのがちょうどいい。
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