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4、熱病と臆病③
ホームルームで校内新聞が配布されたのは水曜の終礼だった。陸上部の県大会入賞は夕真が思っていた以上の快挙だったらしく、その立役者である喜久井の写真が新聞には大きく使われていた。無論それは、夕真の撮ったあの写真だ。
「──お兄ちゃん、本気出し過ぎ。意味分かんないんだけど」
「は?」
塾から帰ってきたあとの遅い夕食中。まひるから予想外のクレームを受け取り、夕真は眉を寄せた。
「意味がわからないのは今のお前の言い分なんだが?」
「だってお兄ちゃんがあんな写真撮るから、みんな重陽先輩がカッコいいことに気付いちゃったじゃん!」
「ああ、そういうこと」
理不尽なクレームだが、聞いてみればその理屈も分からないではない。
「なにお前、喜久井のこと好きだったの?」
「そういうんじゃないけど」
と早口で言いながら、まひるは憤然として夕真の向かいの椅子を引く。
「普段はおちゃらけてるけど、いざって時はカッコいいっていうギャップをさ。知ってるのはウチら陸部だけだったのにさ。ああやってみんなのものになっちゃったらつまんないもん」
そう言ってまひるは口を尖らせ、無邪気にぼやいた。その言葉は「走ってる間だけが楽しい。あとは全部苦しい」と言った喜久井の内心と大きく剥離していて、さすがに少し同情する。
「……そういうの、どうかと思うよ。そもそも喜久井は誰のものでもないだろ」
「そんなこと分かってるよ。でも、いいじゃん。見てるだけだもん。お兄ちゃんだって部活で運動部の写真撮りに来て、別にいちいち許可とか取らないでしょ。勝手にイイ感じの構図とか表情とか狙って写真撮るでしょ?」
微妙に論点が違う気もしたが、それに関してはぐうの音も出ない。
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