4、熱病と臆病③

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「でもまひる。それってやっぱり好きなんじゃない? お母さんはそう思う。ほかの子に取られるのがイヤなんだなーって。それってきっと好きってことだよ」  リビングで風呂敷残業に勤しんでいた母も、眼鏡の奥の目を光らせながら話に割って入ってきた。 「喜久井くん、確かに結構カッコいいもんねえ。ちょっとルパート・グリントに似てる」 「は? 別に似てないんですけど。背なんかあたしより低いし」 「いや、俺も似てると思う。ハリーポッターの最初の頃のルパート・グリントに似てる」 「似てないってば! それに本当に別に好きとかじゃないし!」  二対一で形勢不利と見るや否や、まひるはそんな捨て台詞を吐いて自分の部屋へ引っ込んでいく。 「……あれは“好き”だよねえ。夕真」  母は臍を曲げたまひるの背中を見送ると、にまにま笑いを浮かべながらその視線を夕真に移した。 「さあ。違うって言ってるんだから違うんじゃないの」 「ええっ。なにその掌返し」  確かにその話へ水を向けたのは自分に違いないし、まひるのクレームも理不尽だとは思う。けれど、かと言って同じ論調で一緒になってからかう気にはなれない。 「別に掌返しはしてない。ルパート・グリントには似てると思うけど、本人が好きじゃないって言ってるんだからきっと違うんでしょ」  なので実に腑に落ちないという顔で「えー」と首を傾げている母を横目に、皿を洗って夕真も二階の自室に引き上げた。
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