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「……なに」
「あざーす! おれの代わりにガチャ引いてください」
「ガチャ? ソシャゲの?」
「こういうのは無欲な人が引いた方がいいんすよ。ここタップしてください」
と言って、喜久井は画面を夕真に向けた。詳しくは知らないけれど、夕真のタイムラインにもしばしばスクリーンショットが流れてくるアイドル育成ゲームだ。それがあんまり喜久井のキャラと一致しないので、思わず画面と喜久井の間で視線を往復させる。
「……お前みたいなパリピがやるゲームじゃないだろこれ」
「いやいやおれ、別にパリピじゃないっすもん。むしろ本質的にはオタクで陰キャっすよ」
「お前がパリピじゃないなら一体誰がパリピなんだ……」
釈然としないまま、喜久井の携帯の画面をつつく。やたらとキラキラしたモーションが繰り返し流れ、次から次に美少女が出てくる。
「いや、知らないっすけど……おれはパリピっていうよりキョロ充っすね。必死こいて周りに合わせて、舌先三寸で調子いいこと言ってるだけなんで」
「キョロ充?」
ゲームの演出を見飽きた頃、夕真は喜久井の呟いた意味深な言葉で顔を上げた。
「おれ、ちっちゃい時にデカめの病気してんすよ。それで入退院繰り返してて、こんな見た目だし小中じゃむしろいじめられっ子で。だからか親が、今でもまあまあ心配性っていうか」
「……そうなんだ」
夕真の引いたガチャは今のところハズレばかりのようで、喜久井は少し不満げに口を尖らせながら続ける。
「おれは別に、友達とかそんなにたくさんいなくても苦じゃないんすけどね。まー、親孝行の一環っす。親的には息子が部屋籠もってひとりでゲームばっかやってるより、外で友達とかけっこしてる方がきっと嬉しいでしょ? だからおれは、またもとのラレっ子ちゃんに戻んないように必死のキョロ充隠れオタクです」
ガチャの最後の演出が終わると、喜久井は露骨に肩を落として「あざーっしたー」と夕真の前からスマホを持ち去った。
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