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「……悪いな。引きが弱くて」
「え? いやいや。まー、世の中そんなうまくいかないっすよ」
済まなそうにへつらって笑う喜久井は、やっぱり見ていて辛い。
「でも、イベントはまだ続くんだろ?」
「なんだ。知ってたんすか」
と同時に今、自分にだけ差し伸べてやれる手があることが、そこはかとなく心地いい。
「教室でやり辛いなら、ここ来ていいよ。昼は大体俺しかいないし」
こういう気持ち、なんて言ったらいいんだっけ。と少しだけ考えて、夕真はひとまずそれに『同情』とラベルを付けた。
「あ、はい。っていうか、今日までずっとそのつもりで来てましたけど」
「うっざ。俺ほんとお前のそういう図々しいとこ嫌い」
「またまたあ。そんなこと言って先輩、おれが今更お行儀よく『ヤッターいいんすかあ?先輩やっさしー』とかリアクションしたら、それはそれでキモいって言うでしょ」
図星を突かれてオロオロ目を泳がせている間に予鈴が鳴り、喜久井は夕真に反論の隙を与えず「じゃ、次体育なんでこれで!」と部室を出て行った。その身のこなしの速さが随分きれいなので、魅入ってしまったことも反論しそびれた理由の一つだ。
「……ふふっ」
けれど溢れるみたいに漏れた笑い声がやっぱり気持ち悪くて、華やいだ気持ちも一瞬で萎れる。
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