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夕真はもう、自分たちのような人間がどんな風に人から笑われ、どんな風に拒絶されるのかを知っている。どんな疎外を味わい、大切な人にどれだけ大きな戸惑いを与えるのかを知っている。
「おい、盗撮マン」
朝礼と授業の間。後ろの席から椅子を蹴られ、夕真は肩を竦ませた。
振り向くと、サッカー部の副キャプテンがにやにや笑いで夕真を見ていた。
「昨日も陸部のホモ写真撮ってたん?」
彼とは一年の時もクラスが一緒だった。推薦で進路が決まったらしい。きっと暇なんだろう。
「盗撮じゃない」
「は? なに? もう一回」
「盗撮ではない」
「え?」
小声で「暇かよ」と呟いたらそれは聞こえたようで、もう一度椅子を蹴られた。前につんのめった勢いで机からノートが落ちて、前の席の女子に当たった。「ごめん」と頭を下げたら「最悪。キモ」と舌打ちで返された。
黙ってノートを拾い、歯を食いしばって深呼吸をする。こんなことはあと少し。こんなことはあと少し。いつものように自分に言い聞かせて、授業の準備をする。
織部夕真はゲイだ。けれど、どうしてそれだけのことでこんなに居た堪れない思いをしなくちゃいけないんだろう。そう考えると悔しくてたまらないが、同時に、そればかりが原因でもないだろう。とも思う。
同じゲイでも、社会できらきら輝いている人はたくさんいる。タレントやオピニオンリーダーでなくたって、当たり前に男同士で恋をして、普通に明るく楽しく暮らしている人だってたくさんいる。
だからきっと、夕真はただ夕真のままで「キモい」のだ。
周りがどうであれ、それを跳ね返せる強さやしなやかさがあればこういう仕上がりにはならなかったんだろう。
息を潜めて午前中をやり過ごし、移動教室の帰りに部室の前を通りがかったら、鍵のかかった戸の前にはもう喜久井がいて目が合ってしまった。
「──何してんのお前」
夕真はむっとしかめっ面で目を細めたのに、喜久井はぱっと顔を綻ばせて目を瞠り笑う。
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