6、熱病と臆病⑤

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「……ずっと仲良かったのに、ゴメンするんだ」  他に好きな子でもいんの? とは、臆病な夕真には怖くて聞けない。 「ってなるじゃないすか! 他に好きな子いるの? とか、そういうのが嫌なんすよ!」 「ご、ごめん」  臆病でよかった! ともう一度胸を撫で下ろし、夕真は一度置いた箸をまた手に取った。 「フツーに『今は陸上に集中したいから』とかでいいんじゃないの? 無難だろ」 「いやでもそれ、向こうもほぼほぼ状況同じだし、逆に通用しないっていうか。『お互い協力しあって一緒に頑張ろう』なんて言われちゃったら、こっちの詰みっすよ」 「そういうもんか……」 「そこまで言わせて、それでもゴメンって。自分だったら傷つきません?」 「全然わからん……」  夢の中ならいざ知らず現実で好きな相手に告白しようという無邪気さも、振ろうとしているのに傷つけたくないとかいう甘い寝言も、どちらも夕真には全くピンと来ない。理屈は分かるが、共感はたぶん一生できない。 「そもそも、そんなに相手のこと傷つけたくないならフるなって話だろ。気持ちには応えたくない。でも傷つけたくはないって、虫が良すぎると思うけど」 「おっと。痛いところを突いてきますね……」 「どのみち傷つけることになるなら、理由を正直に話すのがまあ……誠意と言えば誠意なんじゃないの? 知らんけど」  夕真は「キモオタ陰キャが何か言ってる……」という自嘲の笑いを堪えつつ、それでも一応「誠意」を持って考えを口にした。  喜久井はそんな夕真の言葉を噛み締めるように「うーん」と腕を組んで唸り、やがてラインに送られて来たメッセージが出たままの自分の携帯を夕真に差し出してきた。
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