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「……これ、見て欲しいんすけど」
「バカお前! それはいくらなんでも!」
「いいから見てくださいって! おれだって誰にでもは見せないですよ!」
誰にでもは見せない。という言葉にあっさり釣られ、夕真は恐々とその文面を視界に入れた。陸上部での思い出話を軸に、彼女の目に映る喜久井がいかに輝かしいのかが綴られている。なかなかの甘酸っぱい大作である。
けれど、それだけだ。なんだかミーハーというか、本人は親しみを込めて赤毛の喜久井のことを「キャロ」と呼んでいるんだろうが、あんまりいい感じはしない。
「……うん。彼女はお前の、ジャニーズ系な童顔とミニマムな身長が好きなんだなっていうのが、ものすごく伝わって来た。あと、全然振られる想定がないっていうのも」
「でしょ? で、今度はこっち見てください」
と言って喜久井は、今度は家族写真を夕真に見せた。写真の中の喜久井は、体格の良い赤毛の青年たちに囲まれあどけない笑みを浮かべている。
「スコットランドの伯父と従兄たちです」
「ふうん。良い写真じゃん。これが何か?」
「おれ、近い将来きっとこうなります」
「……全っ然わからん。どういう意味?」
夕真が首を傾げながら喜久井の顔を見ると、彼はひどく落ち込んだように大きく溜め息を吐き、鎮痛な面持ちで発した。
「エヴァンズ家の男はみんな、十八歳でアゴが割れるんですよ。誰と付き合うにしても、後からアゴ割れたせいで振られるとか絶対嫌だ! なんか格好悪い!」
は? と思ってもう一度写真に視線を落とす。
「あっはははははは! ほんとだ!!」
確かに喜久井の従兄たちは、漏れなく綺麗に顎が割れている。逞しくてかっこいいとは思うけれど、今の喜久井とのギャップがあんまり激しいので思わず笑ってしまった。
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