2、熱病と臆病①

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「どうも初めまして! 二年の喜久井です。県大会の写真、ありがとうございました。新聞部の子にデータもらったんすけど、いい写真だって親も喜んでました!」 「ああ、どうも。喜んでもらえたなら何よりだけど……わざわざそれを伝えに?」  止まっているところを近くで見るのは初めてだけれど、意外と小さい。というか、かなり小さい。妹のまひるは女子にしては大きくて一六五センチあるが、もしかしたらまひるよりも小さいかもしれない。 「いえ、あのー……母がこの用紙に写真をプリントしてもらえないかって」  と言って彼が気まずそうに差し出した紙袋からは、大きな印画紙のパッケージがはみ出している。 「もちろん、無理なら全然断ってもらって大丈夫なんですけど。わざわざネガからプリントしてもらわなくても、もらったデータをパソコンから印刷すればいいし……」  喜久井は紙袋を机の上に置き、肩を竦めながら早口でそう続けた。しきりに目を泳がせているのはきっと、夕真が怒っているか不機嫌なのだと誤解しているせいだろう。 「いや、いいよ。プリントしておく。新聞部の子にデータもらったって、きっとラインか何かでだろ?」 「あ、はい!」 「ちょっと見せて」  と夕真が立ち上がって手を差し出すと、喜久井はズボンのポケットから携帯を出して画面に写真を表示して見せた。 「……やっぱり。このデータだと、大きく引き伸ばしたら解像度足りなくてガビガビになるから」 「カイゾード?」 「うん。……まあ要するに、あんまり綺麗なプリントにならないってこと」 「そうなんですか? なんで?」  濃い赤の睫毛に縁取られている大きなグリーンアイが、ぱちくりと瞬いては夕真を見つめた。どこに行っても可愛がられそうな陽のオーラに当てられ、ただでさえ細い夕真の切れ長一重の目がますますうんざりと細くなる。  この後輩にピクセルだdpiだと丁寧に説明してやっても、それこそ一インチも理解できないだろう。それになんなら「さすがオタクっすね。ウケる」と一笑に伏されそうだ。先入観ではあるものの、彼がまひると同じ文化圏の人間ならそうなる蓋然性は高い。 「……お母さんに聞きな。わざわざ銀塩の印画紙用意してくれるくらいだから、詳しいんじゃないの?」  なので夕真はその徒労を回避するべく、それとなく彼から目を逸らした。 「そっか。そうですね。帰ったら聞いてみます」  喜久井はそう言ってひとりでうんうん頷き引き下がった。
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