11、愛日と落日④

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「……」  と思って記憶を辿り、パッとそれが出てこなくて引き続き変な汗をかいた。  彼にかけてもらった言葉。荷が重い。うっざ。図々しいとこ嫌い──嫌い(笑)  彼にかけてもらった言葉──かけてもらった。というより、どちらかと言えば「浴びせられた」の方が事実は近い。  違う違う! 違うんだって! 素直じゃないんだからあの人は!!  という自分の思考回路が、完全にストーカーで流石に引く。けれど、そうとしか思えないから困るし焦るし悲しいし怖い。あんまり怖いので、慌てて甘い方の思い出を辿る。 「……」  ない。全然ない。思い出せない。頑張れ。とか、応援してる。とか、分かるよ。とか、月並みでテンプレートに沿ったような言葉しか記憶にない。  眼差しばかりがどうも鮮明なのだ。ファインダーを覗いている、戸惑っている、憐んでいる怒っている悲しんでいる──そして、最後に見た複雑なあの眼差し。  もしかしたら、もう声を忘れているのかもしれない。重陽の見る夢は、カラーではあるもののいつも無音だ。  けれどあんなにも笑うことを忌避する人が、自分にだけは笑いかけてくれた。エビデンスならそれだけで充分だろう? という思考回路も、ストーカーの発想なんだろうか。  事実と、それに対する弁解と、妄想と、その根拠を探す不毛な推理が、ひっきりなしに交錯する。その結果はいつも、たったひとつの欲求に結実する。  会いたい。会いたい。会いたい。目を見て、話がしたい。そのためならなんだってできる。  これが恋じゃないならなんなんだろう。どんなに辛くても苦しくても、考え抜いた先にいつもその気持ちが、北極星のように燦然と輝いている。
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