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そんなことを考えている内に電車は川を渡り、彼の住む街へ近づいていった。
メッセージの返事でさえそっけない彼である。写真なんかあのチケット以外には送られてきた試しがない。ましてや彼自身の姿形など尚更である。
変わったのか、変わっていないのか。そのどちらの姿も想像できないししたくもない。
変わっていないとしたらきっと、彼は今も笑うことを厭いながら辛い毎日を送っているに違いない。
変わったとすれば、それを知らされていないのが悔しいし寂しい。
それって結局、自分のことしか考えてなくねえ? と思い至ってしまい、重陽は大きくため息をついた。そうして頭を抱えている内に電車は目的の駅に着き、重たい頭を上げて重陽は電車を降りる。
「あっちぃー……」
東京駅や新宿駅とは違う直射日光に晒されたホームで、重陽は思わず呟き天を仰いだ。
目的地が同じなのであろう同年代の男女がわらわらと脇を通り抜けていく。ちらちらと自分に寄せられる視線に気付いてしまい、なるべく小さく見えるように背中を丸めながら人の流れに任せて改札へ向かった。
私大である青嵐大は受験生獲得にかなり力を入れているようで、オープンキャンパスに伴い駅から大学へのシャトルバスを出している。
『いま電車降りましたー! 次のバス乗ります!』
バス乗り場へ向かう道すがら、携帯をいつもより気持ち顔に近づけて彼にメッセージを送った。さすがにすぐに既読マークがついて、了解。のスタンプが返ってくる。
イヤホンは、自主練以外ではあえて有線の物を使う。聞く気がないものを、聞こえなかったふりをして無視できるからだ。
夏休みに東京の私大で行われるオープンキャンパスに来るような奴なんていうのは大体浮かれポンチのなので、真のパリピなんかが居ようものなら九分九厘の確率で重陽に声をかけてくる。もちろんそれは言い逃れのないほどの「偏見」ではあるのだけれど。
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