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「……あれ? でもそういや、今日持ってるカメラはデジカメなんすね」
また会えたことも、彼の纏う雰囲気が軽やかなのも、すごく嬉しい。けれどなんだかモヤっとするのは、彼に変化を齎したのが自分ではない。という事実がついてまわるからだ。
彼は重陽の知らない間に皺のない服を着ることを身につけ、東京のサロンで髪を切り、眼鏡を変えて、カメラもフィルム式からデジタルに変えたようだ。
自分勝手な感傷だとは思うものの、やっぱりなんだか裏切られたような気が少しだけしてしまうのだ。置いていかれた。というか、過去を自分の存在ごと丸めて蓋付きのゴミ箱に突っ込まれたような。
きっと「東京」という街が彼を変えたのだ。だから重陽は「東京」に嫉妬する気持ちを抑えられない。
彼にとっての「東京」が担った役目の全てを自分が担いたかった。なんて、自分で自分が恥ずかしいくらいの本当に幼稚な後悔なのだけれど。
「高校の時に使ってたフィルムのカメラって、今はもうお蔵な感じっすか?」
そんなことを考えながらおずおず尋ねると、彼は「いや」と首を横に降って軽く答える。
「今もフィルムはやってるよ。じいちゃんのカメラもお陰様で現役」
「そっすか。よかった」
「よかったってなに」
「いやだって、おれ先輩のフィルムの写真好きっすもん。モノクロもカラーも」
「マジかよ。初めて聞くんだけど」
そう言って彼はまた自然に歯を見せて、小鳥のような声で笑う。
「いや、うそうそ。おれ結構ストレートに言ってましたって! っていうかまひるちゃんと仲良くなれたのも先輩の写真繋がりだし! 聞いてません!?」
自分のストレートな好意が全く響いていなかったことに動揺したあまり、余計なことを口走ってしまった。そう思ったのは、彼の表情がその瞬間に少し硬くなったからだ。
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