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「なんだ。そんなこと気にしてたのか。……いいんだよ俺は別に。そりゃちょっとは悔しかったけどさ。地元出られりゃどこでもよかったし、どうせ学費は自分の借金だしな」
「は? え、しゃ、借金!?」
「うん。奨学金。……え、なにお前、奨学金借りないでここの学費まともに親負担なの?」
夕真は妖怪でも目の当たりにしたような目で重陽を見ていて、そのことが重陽自身も大いにショックだった。
彼に引かれたことが。ではない。言われてみれば当たり前のことなのだけれど、今の今まで学費の出どころだったり、それによって生じる両親の負担に想像が及ばなかった自分のバカさ加減が。である。
「──たぶんおれの学費って今までもこれからも全部マトモに親負担っすけど……ウチってもしかして『実家が太い』ってヤツなんすかね……母親、専業主婦だし」
「お、おう……そりゃきっと、うちがゴボウとするとお前んちは大根くらいには太いな」
結局なんだか微妙な空気になってしまい、三秒から五秒の無言に耐えられず今度は重陽から「あの、クラブ棟って……」とぎこちなく話題を変えた。
家族の間でもクラスでも部活でも、重陽はいつだってうまくやってきた。なのに、夕真相手に同じことをして裏目に出なかった試しがない。それが分かっているのに「同じこと」をしてしまうのだから、本当に自分が嫌になる。
けれどその原因も、実を言うと当たりがついているのだ。
それは、ひとえに下心。ありのままの自分を認めて欲しい。愛して欲しい。他ならぬ彼にそうして欲しい。
彼のそれにも触れさせて欲しい。身も心も全て、彼の何もかもが自分の預かり知るところであって欲しい。彼の全身、髪の毛一本一本の先の先から内臓の裏の裏まで、撫で回し舐めまわし何もかもを両腕の内に閉じ込めて離したくない。
そんな子どもじみつつ薄汚いエゴと下心と煩悩が重陽の調子を狂わせる。
現に、そこまで暴力的な執着を他の何にも抱いたことがないので、どこでだって喜久井エヴァンズ重陽はちょうど良く隙のあるクリーンなお調子者だったはずだ。そうあれないのは彼の前だけで。
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