13、愛日と落日⑥

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「あの、監督さんって今はどこに……練習中でしょうか。トラックに行ったら会えますか?」  送られてきた冊子で見た気弱げなスーツ姿の監督の姿を思い浮かべながら、重陽は丹後主務に尋ねた。 「あー……先生はたぶん、相談会の方だな。文学部のスペースにいなかったか?」 「ええっ! 大学の先生が指導されてるんですか!?」  大学で講義をしている先生が監督。少なくとも、重陽の周りで陸上での進学先として名前の挙がる大学でそういう例は聞いたことがない。  頭を過った不安は伝わってしまったようで、丹後主務は苦笑いを浮かべ「まあ、そう言う反応になるよな」と頬をかく。 「指導っていうか、まあ、監督は監督でも『現場監督』って感じだな。単なる顧問の先生って言った方が実態には近い」 「え!? じゃあ皆さんどうやって練習──」 「各自の創意工夫だよ」  丹後主務は不審が滲み出た重陽の言葉を遮り、淀みなく言った。 「大会前、特に駅伝の前は目標の確認や情報共有のためにしょっちゅうミーティングはするけど、基本は自分で自分をコントロールしながら各自で練習してる。まあ、お互いのタイミングとか方針が合えば集まって練習することもあるけどな。送ったパンフにも書いてあったろ?」  彼の言う通りに書いてあったような気もするし、そういうニュアンスではなかったような気もする。なんとも言えない。  現物を持ってこなかったのを後悔したが、あとの祭りだ。重陽は彼の語気が孕む迫力と眼差しの強さに圧倒され、気付けばまるで操られるように「はい。書いてました……」と発していた。 「──ま、もしかするとちょっとばかりマイルドな表現を使わせてもらってたかもしれないけどな。そこはあれだ。何がなんでもうちに君が欲しかったからってことで勘弁してくれ。じっくり考えてくれていいから」  かと思えば丹後主務はまた柔らかく眉尻を下げ、いかにも人好きのしそうな笑みを浮かべて目を細めた。  これが世に言うカリスマ性というやつなんだろうか。嫌な感じはしない──むしろとても格好良く見えるし、頼り甲斐もありそうにも思える。  けれど、なんだか底の知れない人だ。それが重陽の、丹後尚武という人に対する正直な印象だった。
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