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三階にある写真部の部室からはグラウンドがよく見下ろせた。陸上部は今日も、石灰でラインを引いた即席のトラックを使って練習をしている。
喜久井はその白線に沿って、バターにならんばかりの勢いでぐるぐるぐるぐる走り続けていた。ひとりだけ髪が長くておまけに赤毛なので、すごく目立つ。
夕真は貸し出し用に置いてある部のデジタル一眼に望遠レンズを取り付け、グラウンドを周回する喜久井をスナイパーのように狙った。けれどもレンズの倍率が今ひとつ足りなくて、どうにも構図が決まらない。
「──先輩、何撮ってるんですか?」
眼鏡越しにファインダーを覗いていたスナイパー夕真であったが、うっかり後輩に背後を取られてカメラを降ろした。
「ああ、喜久井くん……」
「いや別に」
図星を突かれ、つい早口になる。しかし後輩はそんな夕真に構わないまま、乾燥棚でサーキュレーターの風に吹かれている写真を一瞥した。
「この間の県大会、すごかったみたいですね。観に行ってたんですか?」
「まさか。たまたまだよ」
「たまたまあんなとこに行きます?」
「妹に呼び出されたんだ」
そんな雑談を交わしながら夕真は首にカメラを提げ、コートを羽織った。三百ミリの望遠ではろくな構図にならなさそうだし何より、隠し撮りをしているみたいでやっぱり気分が良くない。
「ちょっと外出てくる。たぶんすぐ戻るけど、先帰るなら鍵かけちゃって」
ほかの部員にも聞こえるように声をかけ、部室を出てきた。暮れなずんだグラウンドは茜色に染まり、そこを周回する彼らの影は長くなったり短くなったりを延々と繰り返している。
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