14、愛日と落日⑦

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「先輩がそう言ってくれるならおれはおれで頑張りますけど。でも実際問題、青嵐が箱根出るって結構な無理ゲーでしょ。予選会も一応毎年チェックしてますけど、青嵐大って学連選抜に入れた選手すら今までいないじゃないすか」  と重陽が捲し立てると、夕真は痛いところを突かれた。とでも言うように肩を竦めて苦笑を浮かべ頬をかいてみせた。  箱根駅伝は例年、概ね二十の大学と一つの選抜チームを合わせた二十一チームが出場している。  本大会で十位以内に入った大学には次回大会のシード権が与えられるが、十一位以下の大学はその年度の十月に行われる「箱根駅伝予選会」へ出場しなければならない。そこで十位以内に入賞しなければ、一月の二日三日に行われる箱根駅伝のチーム出場権は得られないのだ。  が、十一位以下に甘んじたチームからも各大学から予選会のタイムが良かった外国人留学生以外の選手が一名ずつ選抜された「関東学生連合」というチームが編成され、二十一番目のチームとして箱根駅伝を走ることができる。要するに、敗者復活選抜チームだ。  しかし重陽の知る限り東京青嵐大学は、この選抜チームにさえ選手を送り込んだことすらない。送られてきた冊子によれば、そもそも創部自体も五年目の新興チームだ。  ひねた言い方をすれば、最後のインターハイ路線においてギリギリ六位でインターハイに漕ぎ着けたようないまひとつうだつの上がらない自分が進むにはお似合いのチームなんだろう。  しかし外面を最大限に繕った言い方をすれば、自分がこのチームを強くする! という大義名分を言いふらして加入する価値のあるチームではある。  けれど、しみったれた重陽の計算を、彼は見たこともないような不敵な笑みで一蹴した。 「お前が、その『最初の一人』になるんじゃないの?」  大手町のビルとビルの間に吹く風に煽られ、彼のふわふわした黒い髪が揺れる。  大きな丸い眼鏡の奥から涼しげで鋭い瞳に見詰められ、胸の奥で行き場のない青い炎が燃えた。
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