14、愛日と落日⑦

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「……いや、怖い怖い。先輩、そんな煽り方どのタイミングで覚えたんすか」 「煽ってなんかない。──でもお前にそう聴こえるならきっと、俺はお前自身より先に、お前の走りに夢を見たんだ」  そう言って夕真はおもむろに駆け出し、車道のど真ん中で「ここ!」と腕をぴんと伸ばし上空を指を差した。 「ここに! スタートと! ゴールのゲートができる! お前は! 絶対に! それを走る側で見る! 絶対だ!!」  たまたま車が通らないのをいいことに、彼は車道のど真ん中から重陽を見詰めてそう叫んだ。 「先輩危ない! ここ別にホコ天ってわけじゃないでしょ!?」  慌てて彼を追いかけ、どさくさ紛れにその手を取って歩道へ連れ戻す。けれど彼はそんな触れ合いにも動揺する様子など少しもなく、屈託なく笑いながら重陽に手を引かれて歩道へ戻ってくる。 「ごめんごめん。やっぱ俺、お前に会えてちょっとテンション上がってんだわ」  重陽の知らない彼の語彙で、夕真はけらけらと笑いながら小鳥のような声で伸びやかに言った。 「あの、それ、マジでめちゃくちゃ嬉しいは嬉しいんですけど……でもおれ、正直戸惑ってます。なんか、全然おれの知ってる先輩じゃないから」  体の中で心が高速分裂と高速移動を繰り広げ、何が何だか分からなくなった挙句、ついに重陽は「ちょうど良く隙のあるクリーンなお調子者の喜久井エヴァンズ重陽」という人間の形を保てなくなる。 「先輩、いつからそんな気軽にケラケラ笑うようになったんすか。おれはそんな先輩ぜんぜん知らないし、なんか、なんていうか……なんかすげー腹立ちます! ラインとか全然返してくれないくせに、てか自分からとか絶対送ってこないくせに『テンション上がってんだわ』って何!? リアリティゼロかよ!」
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