15、愛日と落日⑧

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「既にあちぃなおい……」  マンションのエントランスを出た瞬間。うんざりするような強い日差しが重陽の目を焼いた。平均気温は東京とそう変わらないけれど、なんとなく地元の方が日差しが凶暴な気がする。影を作る高い建物があまりないからかもしれない。  歩いて十分の駅で下り電車に乗って二駅。大概既に小腹が減っているのでキオスクでおにぎりとプロテインドリンクを買ってバスターミナルへ向かう。 「お。おはよー喜久井。東京のオーキャンどうだったよ」  プロテインのストローを咥えながらバス停に並んだら、たまたますぐ前に並んでいたのが市野井だった。 「んー。……おはよ。まあ、いいとこだったよ。青嵐大。今風ってカンジ?」 「ふうん。織部の兄貴が行ったとこっつったっけ? 写真部で、お前の仲良かった」  言外に自分と彼の間に通った感情に言及されているような気になってしまい、重陽はストローを吸ったまま「んー」と曖昧に返事をする。 「確か、まあまあ偏差値高いよな。でもお前、直々に勧誘来てたじゃん。いいとこだったなら頑張ってみてもいんじゃね? 関東の大学行けば、箱根の可能性もゼロじゃないもんなあ」  しかし予想外にまともな返事が返って来て、重陽はストローから口を離し「それよ」と応えた。 「雰囲気は良かったよ。特に今の主務の人と主将の人が超感じ良くてさ。受験は要るけど、逆に推薦なくても入試さえパスできればイケるし激推し」 「あー。俺、競技は高校までって決めたんだ。インハイ行けたらまた違ったろうけど」  と気まずげに発した彼へ咄嗟に「あ、そっかあ……そういうのもあるよね」としか返せずに、重陽は自分のこれまでの不誠実な自分の生き様を呪った。  そうしている内にバスが来て、なんとなくほんの少しだけ気まずい空気のまま黙ってバスへ乗り込む。同じように部活へ向かう同じ高校へ通う学生や通勤の人たちで、ほとんどバスはぎゅうぎゅうだ。 「……そう言えばお前、もう聞いた?」  なんとなく私語が憚られる満員バスの中。停留所を二つほど過ぎた頃、隣のつり革を掴んでいた彼は少し下衆っぽい声で発した。 「ジュンちゃんと遥希、ついに付き合い始めたってさ。ジュンちゃんの方からコクったらしいよ。肉食だよなあ。あいつ」
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