手が冷たいのは誰のため?

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手が冷たいのは誰のため?

彼の手はいつも冷たい。触るとこちらまでひんやりとしてしまう。 でも僕にとってはそれが心地よいのだ…。 小さい頃病弱で、すぐに風邪をひいていた僕。 記憶にあるのは、熱で辛かったこと、そして、僕の隣にはいつも手の冷たい彼がいたこと。 彼はいつも、熱を出して布団で寝ている僕の隣にいた。 「俺が隣にいるからな」 そう言って冷たい手を僕の首やおでこにあてては、熱でうなされる僕を冷やしてくれていた。僕にとって、冷たい彼の手は心地よく、唯一の救いの手のようで、誰よりも心を許していた。 しかし、中学にあがる頃、親の転勤で引っ越すことになり、彼とは離れることになってしまった。 僕は寂しくて、悲しくて、泣きじゃくった。 彼は、そんな僕の頭をやさしく撫でながら、 「…………………からね」 「……随分と懐かしい夢を見たな」 僕は高校3年生となり、少しずつ運動をしていた甲斐もあって、今では風邪もひかない健康体になっていた。 暑い日が続く、夏休み真っ只中。 今日は高校の友人と外で遊ぶ約束をしていた。 「あっやべ!もうこんな時間だっ!」 夢の余韻に浸っていると約束の時間がせまっており、集合場所まで走っていくことにした。 しかし、それが悪かった。 目的地まであと少しというところで足元がふらつき、眩暈もしてきた。 思わず道端に座り込む。 急いで友人に連絡を取ろうとするも、手が思い通りに動かない。 (あー、やばいかも…) 諦めかけたそのとき、 「だいじょうぶ?」 そういって誰かが僕の頬に触れてきた。そして驚いた。 その手は真夏にもかかわらず、ひんやりと冷たかったのだ。 反射的にその手を握る。やはり冷たい。 ついさっき夢で見た、昔の記憶が脳裏に浮かぶ。 「もしかして…っ」 ぱっと顔を上げると、幼い頃の彼の面影を残した、やさしい微笑みがあった。 「言っただろ?必ず迎えに行くからねって。」 そう言って彼はまた、僕を冷やしてくれるのだった。
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