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怖くねぇさ
わたしは自分のうちが苦手だ。
漆喰の塀に見越しの松。
廊下をあるけば、縁側から野鳥のさえずり。
障子をあければ、苔むした石灯籠。かこんと音を立てるししおどし。
自然を意識した伝統ある日本家屋。それが私の生まれ育ったうち。江戸から令和の現代まで続いている、すこしばかり広いお屋敷である。
わたしは物心ついたときから、自分のうちが苦手だ。いるから。
夜間、家屋がミシミシと音を立てる。時にはパキッと、割れるような音も。
母曰く、家鳴り。
湿気で木材が伸縮して、ひとりでに音が出るらしい。
わたしは母の説明を、嘘だと思っている。
庭に、火の玉が浮かぶことがある。数えきれないほど、浮いていることも。
父曰く、蛍。
庭にきれいな池があるから、源氏蛍が来るらしい。
わたしは父の説明を、嘘だと思っている。
わたしが見た火の玉は、青かったのだ。青い光の蛍なんていないだろう。
うちにはいる。得体の知れないものがいる。
生来の臆病者であるわたしは、もう十二になるというのに、毎日が怖くてしかたない。
昼間は楽しく過ごしているが、夜間は怖くてしかたない。
そんなわたしを、ばあさまが笑う。おまえはほんとうに怖がりだねと。
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