怖くねぇさ

1/2
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

怖くねぇさ

 わたしは自分のうちが苦手だ。  漆喰の塀に見越しの松。  廊下をあるけば、縁側から野鳥のさえずり。  障子をあければ、苔むした石灯籠(いしどうろう)。かこんと音を立てるししおどし。  自然を意識した伝統ある日本家屋。それが私の生まれ育ったうち。江戸から令和の現代まで続いている、すこしばかり広いお屋敷である。  わたしは物心ついたときから、自分のうちが苦手だ。いるから。  夜間、家屋がミシミシと音を立てる。時にはパキッと、割れるような音も。  母曰く、家鳴り。  湿気で木材が伸縮して、ひとりでに音が出るらしい。  わたしは母の説明を、嘘だと思っている。  庭に、火の玉が浮かぶことがある。数えきれないほど、浮いていることも。  父曰く、蛍。  庭にきれいな池があるから、源氏蛍が来るらしい。  わたしは父の説明を、嘘だと思っている。  わたしが見た火の玉は、青かったのだ。青い光の蛍なんていないだろう。    うちにはいる。得体の知れないものがいる。  生来の臆病者であるわたしは、もう十二になるというのに、毎日が怖くてしかたない。  昼間は楽しく過ごしているが、夜間は怖くてしかたない。  そんなわたしを、ばあさまが笑う。おまえはほんとうに怖がりだねと。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!