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「よかった! じゃあ改めてよろしくお願いしますね。充さん!」
おどけたような口調の私に充さんは笑顔のままで静かに頷いた。
「あ。すみません充さん、トイレお借りしてもいいですか?」
「どうぞ、リビングを出てすぐ左側にあるから」
指をさしながら場所を教えてくれた充さんに私はお礼を言いながら席を立ち、リビングを出た。
トイレから戻った私は、さっきまでの笑顔が消え去り、うっすらと涙を浮かべ、憂いを帯びた表情でリビングの椅子に座る充さんに思わず目を奪われてしまっていた。
暫く声をかけることすらためらっていた私の気配に気づいた充さんは、慌てたように表情を変えた。
「しほりさん、いつからそこにいたの?」
呟くように言う充さんに私は歩きながら答えた。
「今来たばかりですよ……。私は何も見てません」
ごまかすように言う私に充さんは、そっと目じりを手で拭いながら口を開いた。
「……しほりさんはあまり嘘が得意じゃないみたいだね」
「……すみません。なんだか声をかけ辛くて……。私のために無理してましたか?」
「……そうだよ。君の為にもなるべく明るくしていようと頑張ったつもりだったけど、君の言うとおり僕は少し無理をしていたみたいだ」
涙をこらえて答える充さんに私は少し間をおいて、半ば自分にも言い聞かせるように話した。
「悲しいときは、悲しいままでもいいんじゃないでしょうか? 大事な存在を喪った者同士、悲しみはきちんと分け合いましょうよ! だから、充さん。泣きたいときは私に遠慮せず泣いてもいいですよ」
「しほりさん……。ありがとう……。ごめんね、少しだけ泣かせてくれ」
そう言って、堰を切ったように涙を流す充さんに、もらい泣きした私は放っておけないような思わず抱きしめたくなるような感情を充さんに覚え、衝動的にテーブルの上に置いていた手を伸ばしかけたが、ふと我に返り、その手を引っ込め、暫く充さんを見守った。
嗚咽が治まり、顔を上げた充さんは流れた涙をティッシュで拭いながら照れくさそうに口を開いた。
「ごめんね、みっともないところ見せて」
「いいえ、大丈夫です……。お互い様です」
自らも涙をハンカチで拭いながら少し笑みを浮かべて答え、さっきから考えていたある提案を充さんに恐る恐る話した。
「あの……、充さん、私……、しばらくここに居ようかと思っているんですが……」
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