第1章 失って得たもの

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「えっ! しほりさん、それってどういう……」 「急に、母が居なくなって、いろいろ大変だろうと……思って、何か充さんのお手伝いがしたくて……。あ、もちろん充さんがよければの話ですので」 私の提案に、充さんは暫く沈黙し何度か軽く頷いてから口を開いた。 「……どうしようかな……、僕としてはありがたいと思っているけど。しほりさん、無理してないよね?」 「無理していません。今までは母がいたから一人でも頑張れたんですが、実のところ私も今寂しいんです。一人では耐えられないこともあるし、そんな時、誰かの傍にいたいと思っているんです」 偽らざる本音を漏らした私の話を俯いたまま聞いていた充さんだったが、不意に顔を上げてゆっくりと私を見つめた。 「わかった、いいよ。しほりさんが落ちつくまでここにいればいいよ」 「ありがとうございます! 良かった。内心断られることも覚悟してたので、安心しました」 頭を下げ微笑みながら話す私に笑顔を返して、充さんは立ち上がり、自分の寝室の隣の部屋に招いた。 「ちょっと散らかってるけど、ここ使って。押し入れに蒲団も入ってるから自由に使って構わないよ」 「ありがとうございます! 遠慮なく使わせてもらいます。あっ、そしたら私、一旦荷物をまとめて来ないと……」 「そうだね。じゃあ、送るよ」 「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします」 私が帰り支度をしている間に充さんは車のキーを取りに玄関へと向かった。 再び充さんの車に乗った私は、さっき聞きそびれたことを口に出した。 「充さん、この車って……」 「ああ、これは代車。新しいのに買い替えることになったから……。あの時澄江さんが乗っていたやつはとてもじゃないけど乗れる状態ではなかったし、たとえ修理して乗れる状態になったとしてもとても乗る気になれなくてね……」 全て聞き終わる前に答えた充さんの言葉が改めて母の最期のいたましさを痛感させられ、知らないうちに私は再び涙を流していた。 「すみません、泣くつもりはなかったけど、急に込み上げて……しまって」 「泣きたい時は、素直に泣いていいよ。さっき君も言ってたよね?」 「そうでしたね、しばらく泣かせてください」 「どうぞ、もうすぐ日が暮れるし。僕には見えないから、安心して泣いていいよ」 「はい……」
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