番外編 予期せぬお披露目

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 そんなわけで充さんの会社に居残ることになってしまった私はオフィスの隅にある応接室に通され、先程の女子社員達に取り囲まれていた。  充さんみたいな素敵な人を取られた恨み言でも言われるのだろうかと内心びくびくしていた私に牧田と名乗ったショートカットの女性が心配そうな口調で語りかけてきた。 「初対面でこんなこと聞くのもどうかと思いますけど、奥様大丈夫ですか?」 「……えっと、大丈夫って何のことですか?」  聞かれていることの意図がわからず質問を質問で返していた私に今度は水野と名乗ったセミロングの女性が言いにくそうに尋ねてきた。 「あの……鈴木部長と一緒に暮らすって大変でしょう。私達でよければたまっている鬱憤吐き出してください!」 「……別に大変ではないです……けど」 「奥様、我慢しないでください。あんな鬼上司と暮らしててストレスたまらないはずがないですし」 「そうですよ、あんな冷血漢に遠慮しなくていいですよ」  割って入った山内と名乗った背中まで伸びたロングヘアを軽く括った女性がそう息巻いた。  《鬼上司》、《冷血漢》私の中の充さんのイメージに全く登場しなかったワードと何となく同情的な彼女達の反応に、『充さん、この人達に何をしてきたんだろうか?』と心の中で呟いて、なんとか充さんのイメージアップを図ろうと私は口を開いた。 「本当に我慢なんてしてませんし、優しくしてくれてますよ」 「……部長が、優しい……? 箸の上げ下ろしにまで文句つけてきそうな部長が、優しい……?」  尚も疑ってかかる水野さんに頷き笑いながら私は答えた。 「いや、本当に優しいんですって。細かい家事も手伝ってくれますし、困っていたら話を聞いてくれるから充さんに不満なんてないですよ」  私の言葉に驚きを隠せない様子の彼女達は互いに顔を見合わせて信じられないといった表情を浮かべていた。 「マジか……部長……」  絶句しつつそう呟いた牧田さんは納得のいっていない表情を浮かべ、しばらくの沈黙の後、堰を切ったように今までの充さんの態度について語り始めた。  すると水野さんと山内さんも後に続くように充さんへのクレームを言い始めた。  私の知らない充さんの姿を知ることができたことでついつい盛り上がってしまい、私は結局一時間弱ここに居座ってしまった。
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