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「あぁ、楽しかった。皆さんお仕事も忙しいのにお気遣いありがとうございました。ということで、そろそろ私は帰りますね」
すっかり意気投合した彼女達に笑顔で一礼した私は彼女達にエレベーターまで見送ってもらって充さんにこれから帰ると連絡してから帰路に就いた。
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帰宅してからも様々な感情が湧き上がり、興奮が抑えられなかった私はその勢いのまま溜まっていた家事を一気に片付け、シャワーを浴びてから夕食の準備に取りかかった。
悪阻を見越して充さんが買ってくれた自動で煮物を作ってくれる鍋に切った具材と調味料を入れスイッチをオンにして、鶏肉に下味をつけ焼くだけの状態にして冷蔵庫に戻し、炊飯器のタイマーをセットした私はベッドで少し横になった。
うたた寝のつもりだったが、気疲れのせいかすっかり熟睡していた私が目を覚ますと、いつの間にか帰って来ていた充さんがキッチンで鶏肉を焼いてくれていた。
「おかえりなさい。ごめん充さん、疲れてるのにご飯作らせてしまって」
「ただいま。いいよこれくらい。それから今日はありがとう助かったよ。で、しほり、あいつらに何を言われたの?」
てきぱきと夕食の用意をしながら殆ど一息でそう尋ねた充さんを見つめた私は昼間の牧田さん達の発言を思い出し、堪らず吹き出してしまった。
「何だよ、人の顔見て吹き出して。どうせろくでもないこと言ってたんだろ」
「いえいえ。普段の充さんの仕事ぶりについてじっくり伺っただけです」
「……ふぅん。まぁ、後で詳しく聞くからとりあえずご飯にするよ」
含みのある笑顔でそう答えた充さんを手伝いテーブルに着いた私は、付き合い程度に箸を伸ばしながら昼間の一件について話し始めた。
「……さんざんな言われようだな」
「はい……そうなんですよ。ということで充さん。もう少し優しく接してあげてもいいんじゃないですか? 聞いてた時は楽しかったんだけど、私だんだん悔しくなってきて……」
「……悔しい? 何で?」
訝しげにそう尋ねた充さんに私は一度深く頷いて答えた。
「だって、本当の充さんを知らないくせに言いたい放題言われて電車の中で少し腹が立ってました。充さんはこんなに素敵な人なんだって会社の人にも知って欲しいわけですよ私としては」
箸を握りしめながらそう息巻く私を少し引き気味に見つめていた充さんは深いため息とともに口を開いた。
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