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不穏な言葉を口にする鈴木さんに、私は怪訝な表情で尋ねた。
「事故……だったんですよね? それなら鈴木さんのせいではないですよ」
「いえ、僕が今日の帰りに『迎えに来て』と頼まなければ……、きっと澄江さんはまだ生きていたんです。だから……これは僕のせいです」
頭を抱えて嗚咽している鈴木さんを慰める為に私はできるだけ落ち着いて話した。
「いえ、そうじゃないと思いますよ。迎えに行くことぐらいよくあることですし、私だって母に迎えを頼んだことありますよ。母はただ……、ただ運が悪かっただけだと思います。だから鈴木さん、そんなに自分を責めないでください!」
「……すみません。しほりさんも辛いはずなのに、気を遣わせてしまいましたね」
弱々しい鈴木さんの言葉に私は黙って首を横に振った。
「鈴木さん。母の最期はどうだったんですか? トラックとぶつかったことだけは聞いたんですが、詳しいことを……、知っているなら教えてください」
私の問いに鈴木さんは小さく頷き、少し間をおいて静かに語り始めた。
「……繰り返しになりますが、駆けつけた警察と救急隊員の話では、交差点を澄江さんが直進している時、右側から信号を無視してスピードを上げたままトラックが進入してきたらしく、残念ながら、救出された時には……意識もなく、ほぼ即死の状態だったそうです」
自分の母がそんな最期を迎えるなどと思ってもみなかった私は、運命の無情さを改めて痛感していた。
「……そうですか……。こんなこと言うべきではないですが、せめて苦しまずに亡くなったことだけでも救いだったと思いたいです」
「はい……僕もそう思います」
少しずつ落ち着きを取り戻した鈴木さんは、独り言のように呟いて、噛みしめるように頷いた。そんな鈴木さんの姿を眺めながら、私は今後のことをまだ上手く回らない頭で考えていた。
「鈴木さん。起きてしまったことを考えるのは、一旦やめましょうか? これから忙しくなるはずだから今からのことを考えましょう」
半ば自らに言い聞かせるように口を開いた私は静かに立ち上がりもう一度母の顔を見ようと霊安室へ歩こうとしたが、最近の残業続きと母の死の精神的疲労で、急に私の視界は漆黒の闇に包まれた。
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