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体勢を整えようと思う間もなく、私はバランスを崩し、かすかに聞こえる鈴木さんの声を聞きながら意識を失いその身を冷たい廊下に打ち付けていた。
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視界が再びクリアになった時、私の身体はほんのりと明るい病室のベッドの上にあった。
「しほりさん、大丈夫ですか?」
鈴木さんに優しく尋ねられ、私は自らの不甲斐なさを恥ずかしく思った。
「はい……、すみません。こんな大変なときに私まで倒れるなんて……。ご迷惑をおかけしました」
そう言ってゆっくりと起き上がった私を、鈴木さんは軽く支えてくれた。
「いえ、大丈夫です。僕だってあなたの立場ならば同じことになっていると思いますから……多分」
「ありがとうございます。あの……外が明るくなってる気がするんですが、私はどれくらい気を失っていたんですか?」
私は時計を探しつつ辺りを見回しながら尋ねた。
「もうすぐ朝の六時です」
「そんなに眠っていたんですね私……」
朝焼けの窓を背にした鈴木さんを見つめ、昨日のことが夢ではない現実に、私は言いようのない喪失感を覚えた。
「すべて夢ならよかったのに……」
「僕もそう思います……」
何気なく呟いた私に答えた鈴木さんは、逆光越しにもわかるほど疲れ切っていた。
妻を喪い憔悴しているうえにその娘の看病までさせられないと思った私は空元気を振り絞りベッドから降りた。
「しほりさん、無理しないでもう少し寝ていた方が……」
「いえ、大丈夫です! 母のこともありますし、もう少ししたら会社に連絡しないと。あの、鈴木さん私が持ってたバッグ知りませんか?」
鈴木さんが言い終わらないうちにそう言って、私は持ってきたライトブルーのトートバッグを探した。
「あ! それならここに持ってきてますよ!はい」
そう言って鈴木さんは私にバッグを差し出した。
「あ、ありがとうございます」
「それから、しほりさん、澄江さんのことは僕に任せてあまり無理をしないでください」
心配そうに私の顔を覗き込んで言う鈴木さんに、私は少しだけ笑顔を向けた。
「鈴木さんこそ無理しないでください。それからすみません、夕べから気を遣わせてばかりで、今から母の葬儀もあるというのに、大丈夫かな、私……」
「大丈夫ですよ。澄江さんの葬儀は僕が手配しておきましたし、それに、今澄江さんは斎場にいますから」
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