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すらりとした長身で肩幅が広く、服越しにも程よく引き締まった体型だと感じられた。爽やかな雰囲気で母から聞いていた年齢よりも若々しく見え、整った横顔がとても素敵で母がはしゃいでいた事が理解できた。少し色の入ったメガネがよく似合い、知的な雰囲気を醸し出していた。
「あれ、鈴木さんってメガネかけてましたっけ?」
「これサングラスですよ。運転中ですし。でも、最近どうやら老眼が始まったみたいで、時々メガネをかけてるけどね」
「なるほど、すみません。私、母が亡くなった辺りの記憶が曖昧なんです……」
「……確かに、そうですね。僕も正直あやふやな部分があります。普通の状態ではありませんでしたからね、お互いに」
私の投げた言葉で先程までの笑顔が消えた鈴木さんに申し訳なさを覚えた私はとっさに話題を変えるように一つ質問をした。
「そういえば、鈴木さん。この間からずっと敬語ですね?」
「そういえばそうですね」
「あ、また敬語になってますよ。私年下ですし、家族で敬語もおかしいから、これからは普通に話してくれていいですよ」
「家族か……。わかった、普通に話すよ。じゃあしほりさんも普通に話そうか? 僕が最初に電話をかけた時みたいに」
「あ……!」
してやったりといった顔でこちらを見る鈴木さんに、思わず私は笑みをこぼした。
温かな雰囲気の中で、車は鈴木さんのマンションの駐車場に停まった。
「ここが僕のマンション、案内するからついてきて」
「はい、ありがとうございます」
私は鈴木さんに案内されるまま母が住んでいた3LDKのマンションへ足を踏み入れた。
「お邪魔します……。玄関広いですね。それに結構きれいですね」
「そう? でも中に入ったらがっかりするかもしれないよ。今、少し散らかってるし」
私の誉め言葉に茶化すように答える鈴木さんに和室にある母の仏壇へ案内してもらい、線香を手向け、静かに手を合わせた。
暫く母の遺影を見つめぼんやりとしていた私に、鈴木さんが声をかけてきた。
「しほりさん、とりあえずお茶でも飲む?」
「はい、頂きます。ありがとうございます」
鈴木さんに答えつつ私はリビングに入り、お茶を受け取るためにキッチンへ向かい、ポットの近くで何かを探している鈴木さんの姿を見た。
「どうしたんですか? 何か探し物ですか?」
「いや、実は……急須が……、どこに置いたっけ?」
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