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「――どうしたの? 何か悩みごと?」
清潔感のある白のブラウスに白のタイトなミニスカート、その上に白衣を纏った全身白づくめの先生が、どこか艶かしい響きを持った声でそう尋ねる。
その服装とは好対照に長く麗しい黒髪を微かに揺らし、色っぽく小首を傾げる先生はやはり神々しいほどの美人である。
その美しさと女神のように優しく悩みを聞いてくれるところから、生徒達の間では〝アフロディーテ(※ローマ神話でいうところのヴィーナス)〟という渾名で呼ばれていたりする。
「い、いえ……悩みごと…というまでのことでもないんですけど……その、家族との関係性について、ちょっと疑問というかなんというか……」
その吸い込まれてしまいそうな黒い瞳に見つめられると、黙っていようと思っていても、ついついなんでも正直に話してしまう。
「いいのよ。悩みじゃなくてもかまわないから、なんでも遠慮せずに話してみて」
「は、はい……あの、家族とのつきあい方についてのことだったんですけど……」
加えて、軽く酩酊を覚えてしまうような蠱惑的な声で促され、僕はありのままに、会話のない家族について思っていることをいつの間にか打ち明けていた。
「――そう。なるほどね。あなたの悩みはわかったわ。家族に対する信頼が揺らいでいるのね……」
僕の話を聞き終わると、先生は僕の目をじっと見つめて大きく頷き、共感してくれている様子で僕の漠然とした疑問を一言に抽象化する。
そう……なのだろうか?
先生の言う通りのような気もするし、そうじゃないような気もする……。
「でも大丈夫よ。何も心配はいらないわ。あなたは意識しすぎているのよ」
続けて先生は、僕を安心させようとしているのか? そんななんとも月次な、気休めみたいな言葉をかけてくる。
「お薬を出しておくから、今日は食後にそれを飲んでぐっすりお休みなさい。一眠りして、次に目を覚ました時にはその疑問もどこかへ消えて、すっかり世界が変わって見えるはずよ?」
そして、最後にそう告げると、処方箋を書いてそれでカウンセリングは終了した。
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