1人が本棚に入れています
本棚に追加
とうとう明けない冬がやってきた。
目の前に横たわる白い肢体の下にある血の管では、何を息衝いているのだろうか。
絡める、骨ばった指の付け根から爪のほんの先まで。
僕は息をひとつ吐いて、今一度、胸の音に耳をすませる。
今日という日は、人生の道のりの、時たま寄ったサービスエリアだというのに。
嫌に誇張された「今日」という日常が、こんなにも重たく、冷たいものであるだなんて。
昨日の僕は想像し得ただろうか。
遠くで噴き上げるやかんの音が耳を掠める。
畳を濡らす一滴の雫さえ、厳しくも、僕自身であるのだ。
やかんの音が埋め尽くしているから、胸の内の5文字を言う隙間も無い。
今一度、掌から身を潜めた血の管に口づけた。
部屋が、唇が冷たいから、温度は感じられなかった。
今日は雪が降る日だという。
僕は身を丸めて、最期の朝を静かに、静かに、迎え入れようとしていた。
Fin.
最初のコメントを投稿しよう!