1人が本棚に入れています
本棚に追加
奇々回解 ~僕達は縁日を知らない
僕達は縁日を知らない。
同じ町で育った奏者が笛を吹くよ。
不完全でも構わない、ならば、石段を蹴って急ぐんだよ。
念じて歪んだ夏の残像は、漸く、齧りかけの氷菓と解けてゆく。
心の風鈴を鳴らす彼女は、今日は小さな提灯を持ち出している。
あの夏、何かを交わしたのなら、今は晴天に手をかざして、衝動を突き上げる。
陽炎が作った人混みの中に、混声合唱のうたは必ずしも必要じゃないけれど。
念じて歪んだ夏の残像は、新たなマーチに解けてゆくよ。
君が夏の匂いをくれるから、前向きなさよならで終えるんだ。
その提灯に点けた灯火も、あの子を導いてくれるから。
私達は縁日を知らない。
幼なじみの奏者がエールをくれるよ。
ふたり、再び伏見稲荷の先に揃うなら、花火の音を見上げるよ。
歪んだ残像があるのなら、火薬に紛れて吹き飛ばせ。
――「「影達の正体見たり陽炎だ」」!!
僕達の狂った呪いは、ほんの少しの苦さと渋さを伴って解けてゆくんだよ。
私達の祈った色彩は、最後にほんの少しの甘酸っぱさを胸の奥に残したよ。
夏の終わりに、ありふれた世界で誓いを果たそう。
本当に、奇々怪々な人と人の結び。
僕達は縁日を知らないから。
私達は縁日を知らないから。
最初のコメントを投稿しよう!