奇々回解 ~僕達は縁日を知らない

1/1
前へ
/30ページ
次へ

奇々回解 ~僕達は縁日を知らない

僕達は縁日を知らない。 同じ町で育った奏者が笛を吹くよ。 不完全でも構わない、ならば、石段を蹴って急ぐんだよ。 念じて歪んだ夏の残像は、(ようや)く、齧りかけの氷菓と解けてゆく。 心の風鈴を鳴らす彼女は、今日は小さな提灯を持ち出している。 あの夏、何かを交わしたのなら、今は晴天に手をかざして、衝動を突き上げる。 陽炎が作った人混みの中に、混声合唱のうたは必ずしも必要じゃないけれど。 念じて歪んだ夏の残像は、新たなマーチに解けてゆくよ。 君が夏の匂いをくれるから、前向きなさよならで終えるんだ。 その提灯に点けた灯火も、あの子を導いてくれるから。 私達は縁日を知らない。 幼なじみの奏者がエールをくれるよ。 ふたり、再び伏見稲荷の先に揃うなら、花火の音を見上げるよ。 歪んだ残像があるのなら、火薬に紛れて吹き飛ばせ。 ――「「影達の正体見たり陽炎だ」」!! 僕達の狂った(まじな)いは、ほんの少しの苦さと渋さを伴って解けてゆくんだよ。 私達の祈った色彩は、最後にほんの少しの甘酸っぱさを胸の奥に残したよ。 夏の終わりに、ありふれた世界で誓いを果たそう。 本当に、奇々怪々な人と人の結び。 僕達は縁日を知らないから。 私達は縁日を知らないから。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加