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ばんっと背中を叩かれた。
真子の表情がきらきらと興奮している。拙論にご満足いただけたらしい。
「星羅すごいー!探偵みたい!でも察してたんなら言ってよ!」
「いや、全部妄想の域を出てないんだって。まぁ真実だとしたら、悠馬さんちょっと匂わせすぎでは?とは思ったけど……」
不安で寄る辺ない人間は、自分の持っている物を他人に対してちらつかせることで、なんとか平常心を保とうとすることがある。
悠馬が無防備にも出していたサインの数々は、彼と山本拓也の関係性、その不安定さの表れだったのかもしれない。
悪いことだとは思わない。
魚が泳ぐバーで働く悠馬は、人がよく死ぬ病院の死神の如く医療者たちよりも、ずっともっと繊細でいることが許されているみたいで、ほんの少しだけ羨ましい。
「そのパートまでは良かったんだけどさ。その先よ、問題は……」
溜息が際限なく出てくる。
コーヒーを持っていない方の手で顔を覆ってうめく。
「どうしてあんな捲し立てちゃったんだろう……勝手にやってろとか
……今思うとほんとめちゃめちゃなだし私情が全開……死にたい……」
「いや、あれは悪いことなにも言ってないじゃない。言ったことも全部、星羅にとっての正義には、反してなかったでしょ?」
「そうだけど、そんなものに従って動いてよかったのかな。医療者として。」
「そんなもんだよ。みんな職業倫理とか偉そうにいうけど、結局各々好きなように動いてるんだよ。」
「まぁ……そうなのかなぁ」
研修医1年目、数年後の自分たちが今の会話を聞いたら青くて恥ずかしくて、もう一度死にたくなるかもしれない。
「そういうもんかなぁ」
それでも、真子だけはこうしてありのままの私を肯定してくれるから、明日も地に足をつけて立っていられる。
「私は星羅のそーゆう自分曲げないとこ好きよ!かっこいい」
「そうかなぁ」
にっこりと真子が笑う。
全ての色を濁らせ霞ませる曇り空の下。
顔色がくすんでもおかしくないのに、私の親友は今日も最高に可愛い。
「ーーーそうだといいなぁ……。」
共通の正義なんて幻だし、今は欲しくない。
「それに、まだ短期アウトカムしか出てないけど、あの2人にとっては正解だったんじゃない?」
真子がiPhoneの画面を私に見せてきた。
昨日の夜に投稿されたInstagramのストーリー画面だった。
アカウント名は@takuyayamamoto。写真に映っているのは悠馬さんがカクテルをサーブしながらカメラ目線で笑っている姿と、
「『いろいろ落ち着いて、久しぶりに行きつけのバーに来ました。いつものカクテル今日もおいしいありがとう』だって~」
写真に添えられたコメントを、真子が読み上げる。
その白々しさに怒りが湧いてきて、私は反射的に口走っていた。
「てめぇふざけんなよ、山本拓也」
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