奔走の日々

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 魔法使いは生まれつき魔法を使える能力を有しており、老いるのが遅いとされているが、見た目には普通の人間と変わらない。今こうして見ても、体力に恵まれた者や知性に恵まれた者がいるのと同様、特別なことには思えなかった。 「簡単に使っているように見えますが、魔法を習得するのは難しいのですか」 「普通の人が馬に乗れるようになるのと同じくらいです。ですがランバルト様の魔法は特に凄いのですよ。私たちには治すのが難しい重症者も、みるみるうちに元気になっていくのですから」  口調から崇拝ぶりが伺えたが、ルドガーにはピンとくるものがない。 「もっとたくさんの魔法を使える方が凄いのでは?」    魔法には癒やしの他にも結界を張るものや火を(おこ)すもの、雨を降らせるものなどがある。ランバルトが使えるのは癒やしの魔法のみだと聞いていた。  マリクは謙遜(けんそん)した笑みを見せた。 「何種類もの武器が扱える戦士より、剣を持たせたら誰にも負けないという剣士の方が強いでしょう。魔法使いもそれと同じ、一つの魔法を極める方が凄いのです」 「そうでしたか。では、魔法師様はどんな病も治せるのでしょうね」 「いえ、ランバルト様のお力でも、心の病だけは治せません」    治せないものもあるのかと、がっかりする。それが露骨に顔に出たために、マリクは慌てて付け加えた。 「相手の苦しさがいかほどか、近寄るだけでお分かりになるのはランバルト様だけですよ。ですから、より辛い人を先に診ておられるのです」    示された椅子の方を見てみると、確かにランバルトは相手を選んで治していた。その場に居る多くは、ぼろをまとった貧しい者たちだ。ルドガーには違いなど全く分からない。    見続けているうち次第に飽きてきた。  修道士が三、四人治すたびに休憩しているのに対し、ランバルトは少しも休まない。嬉しそうに人々に接しているのを長々と見せられるのも、倦怠(けんたい)に拍車をかけてくる。  後方に座る男から声が上がったのは、そんな時だった。 「おい、そいつよりオレの方が先に来て待っていたんだぞ。こっちを先に治せ」    誰もが口を閉ざし、その場に緊張した空気が走る。文句を言った男は体格も良く、右腕に包帯を巻いているだけだ。  ルドガーは身構えた。もし主に暴力行為が及んだ場合、守られねばならない立場だ。剣を携えてはいるが、明らかに強いと分かる相手を前にすると足がすくむ。
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