人思う日々

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 彼に出会ったのは高校に入学して初めての梅雨だった。じとじととした空気で気が滅入ってしまいそうな帰宅時間に下駄箱で出会った。  彼はびしょ濡れで校舎に駆け込んできた。彼はサッカー部で、練習中に本降りとなった雨から校舎へ逃げ込んできたらしい。うちのサッカー部は、所謂強豪校で、練習が厳しいらしい。それはあとから知ったことである。インドア派の私にとって、体育会系の部活に関心がなく、彼のことを思うまで、人生のなかで未知の世界だった。私はそのとき雨に濡れながら帰らなくてはならない憂鬱さに加えて居残りで保護者会の資料作成を手伝わさせられたこととで、気分が擦れていた。彼は雨の降り始めから続々と逃げ出した部員たちに出遅れて、一人で校舎に戻ったようで、体育会系特有の連れだった部員たちが見当たらなかった。私はそれまで、運動部員の何をするにしてもみんな一緒、という男たちの関係性に若干の気持ち悪さを抱いていた。だからこそなのか、一人で行動していた彼に目を引かれた。私は自分の下駄箱の前で上履きをしまおうとしていて、彼はびしょ濡れで下駄箱前のすのこに腰かけた。目線が交錯した。 「帰り?」 「うん」 「雨が弱まるまで少し待った方がいいよ」 「塾、あるから」 「そう…」 彼とのやり取りはそれだけだった。私はそのときなんで、雨が弱まるのを待たなかったのか、といまでも時に後悔する。そうしていれば、こんなにもややこしい根回しは必要にならなかったかもしれない。
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