ONLY LOVE

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「ありがと、な」  新田は、洗い物に奮闘している野代を眺めつつ、そう呟いた。 「俺、野代んこと好きだよ。ああ、恋愛感情じゃなくてさ。あいつっていいヤツじゃん? 俺みたいなつきあい下手なのにもちゃんと声かけてくれてさ。あいつのおかげであいつの連れとかが話しかけてくれるようになって、だから俺今学校楽しいって思えるようになったし。そーゆーの、でもあいつって何も考えずにやってるんだ。それってすごいよなーって思う。俺にはできないから」  人間性を好き、という気持ちならある。  だってこんな風に思える人間は野代しかいないから。 「ま、ね。あれはあいつの人徳だろうね。でも、ユキが一番大事にしてるのは、他の誰でもない、おまえだよ、新田」 「……うん、らしいね。俺なんかのどこがいんだかわかんねーけど」 「俺もそりゃ、わかんねーよ。何が嬉しくて男なんか好きになってんだか」  でも、不思議と気持ち悪いって感情は湧かなかった。  触られることも、抱きしめられることも、嫌じゃない。 「ところで、キスは?」 「はあ?」 「まだされてない? それとも、されたけどイヤじゃなかった?」 「んなことされてねーよ!」  思わず大声で叫んでいた。  当然だ。お互い男なのに、そんなこと……したいのだろうか、あの男は? 「なーにー? 神原、新田んこといぢめてんのかー?」  キッチンから野代が手を振って乾かしながらやってくる。 「こら、タオルあっただろ? その辺濡らすんじゃねーよ」 「へいへい。あ、皿洗い終了したぞう。えらい?」 「えらいえらい。ほら、そこにあるフローリングワイパーで床拭け」 「拭いたらご褒美くれる?」 「……何が欲しいんだ?」 「ちゅう」  新田は項垂れた。  そして神原が吹き出すと、くすくすと笑い始めた。 「……もういい。おまえ、そこ座ってろ。俺が拭く」 「えー。俺やるからご褒美くれよお」 「うるさい、この変態!」  唇を突き出して迫ってくる野代を押しやり、新田は立ち上がって床を拭き始めた。  新田の気持ちはわかっている。  野代は微酔している頭でぼんやりと考える。  少し赤くなって、ごしごしと床を拭く新田が、自分に対して好意を持っていること。  でも、それはまだまだ自分の求めているものじゃない。  こうなったら目標はただ一つだ。  一緒に暮らす、それを決めたから安心はしている野代だけれど、とりあえずまだ本性は見せていない。  当たり前だ、追い出されたくはないもの。  だから、本当はキスだってしたいし、押し倒して頬擦りして、えっちだってできればしたいと思う。  それはもう、このトシだから当然だ。  けれど、今はまだ我慢する。  こうやって冗談で迫るだけで。  それでいいのだ。  だって、まだ始まったばかりなんだから。  いっぱい、いっぱいスキって気持ちを伝えよう。  勿論押し付けるわけじゃなくて。  野代は目論んでいた。  一緒に暮らすということは一緒に過す時間が一杯あるってこと。  ならばそうしている間に暗示にかけてしまえばいい。  きっときっと、新田は自分を好きになるんだって。  “好きになれ。俺のこと、好きになれ”  そんな風に心の中で呪文を唱えて。  野代は新田の笑顔を愛しそうに見つめながら、これから毎日この呪文を唱えようと決めていた。  いつか新田の気持ちが自分に向いてくれるまで。
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